研究課題
ヒト大腸がんでの、腫瘍浸潤T細胞の臨床的意義を検証するために、新たに開発した標準化した評価法を用いた多数症例での検討を進めていたが、ステージI/II/III大腸がん約4,000症例での検証作業が終了し、CD8+T細胞の腫瘍浸潤度が手術後予後と有意に相関することを検証した。特にステージII症例で、術後予後予測に有用である可能性が示された。さらにMSS大腸がんでもCD8+T細胞の腫瘍浸潤度が予後と有意に相関することが示された。また、より進行したステージIII/IV大腸がんの網羅的遺伝子発現解析と全エクソンゲノムDNA解析により、病期の進行とともに免疫抑制的な環境が進展し、進行がんでの免疫的サブタイプの分類に成功した。そして各サブタイプに対応した診断標的や治療標的の候補(細胞シグナル、代謝酵素、サイトカインなど)を同定した。明細胞卵巣がんでは、NF-kBシグナル亢進によるIL6/8高産生機序を見いだしていたが、さらにその上流のエピジェネテックな転写因子制御機構を明らかにし、その阻害剤による新たな免疫制御の可能性を示した。網羅的遺伝子発現により、子宮頸がんの免疫的サブタイプを分類し、CD8+T細胞の腫瘍浸潤度と逆相関する分子群を同定し、新たな診断・治療標的候補となる可能性を示した。昨年に引き続き、がん細胞、各種免疫細胞、間質細胞、それぞれに特徴的に作用する複数の低分子化合物を同定し、マウス腫瘍モデルを用いて、in vivoでがん免疫抑制環境の改善や抗原特異的T細胞の増強作用を検討し、がん微小環境の免疫細胞やがん関連線維芽細胞における局所レニンーアンギオテンシン系作動による免疫抑制機構を明らかにし、その阻害剤とPD-1/PD-L1阻害の併用による治療増強効果、またシグナル阻害剤、アジュバント、PD-1/PD-L1阻害の3者併用による治療増強効果を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、多数の大腸がん症例でのCD8+T細胞腫瘍浸潤度の術後予後における臨床的意義の検証に成功した。その一部では、日本人患者におけるCD8+T細胞腫瘍浸潤度の意義、さらにCD8+T細胞以外の免疫細胞の意義も検討した。またMSS大腸がんでは、PD-1抗体の単独治療は効かないが、MSS大腸がんでもCD8+T細胞が重要であることを示すことができ、今後、適切な併用療法により、MSS大腸がんでもPD-1/PD-L1阻害の治療効果が得られる可能性を示した。また、比較的早期と、より進行した大腸がんにおける免疫サブタイプの違いを明らかにし、免疫的サブタイプの同定と、診断・治療標的の候補の同定に成功した。これにより、大腸がんで、サブタイプに対応した適切な個別化・複合がん免疫療法の開発の可能性が示された。明細胞卵巣がんでは、高IL6/IL8産生におけるNF-kBシグナル亢進の上流機構の解明に成功し、新たな治療標的と制御剤候補の同定に成功した。また、がん免疫制御作用のある低分子化合物の探索は進展し、異なる治療標的に対する10種類以上の化合物が同定され、本年度は、マウス腫瘍モデルでのin vivo解析により、局所レニンーアンギオテンシン系のがん免疫抑制作用の発見、さらにその阻害剤併用によるPD-1/PD-L1阻害の治療効果増強が確認された。また、in vivoマウス腫瘍モデル解析により、シグナル阻害剤、アジュバント、PD-1/PD-L1阻害の3者併用の重要性を示すことができた。以上より、本年度は、本研究の目的である、各種ヒトがんにおけるがん免疫病態の個人差の機序と臨床的意義の解明、また、マウス腫瘍モデルを用いて、複合がん免疫療法における適切な薬剤の組み合わせの重要性、すなわち個別化・複合免疫療法の開発につながる基礎研究成果をあげることができ、研究は順調に進捗していると考えている。
今までに 各種ヒトがん(大腸、肺、卵巣、子宮頸部、悪性黒色腫など)で、腫瘍組織の各種免疫細胞の免疫染色と各種臨床情報との相関解析、さらに網羅的遺伝子発現解析や全エクソンゲノム解析による細胞・分子機構の解析を実施し、複数のがんで、免疫学的な観点からのサブタイプ分類に成功し、一部、各サブセットの細胞・分子病態の解明と、診断・治療標的候補の同定に成功している。一方、まだ十分に病態が解明できていないサブタイプは多く、今後、各がん種の各免疫サブタイプの細胞・分子機構を、マルチカラー免疫染色、in situ ハイブリダイゼーションを用いた組織解析、シングルセル解析、がん細胞株を用いた機能解析などの手法を加えて解明していく必要がある。現在、その他のがん種での解析も開始しているが、これまでに、がん種ごとにユニークな機序とがん種・サブタイプに特有な機序があることが判明しているので、今後、この点もさらに明らかにしていくことが重要と考えている。また、遺伝子異常によるがん細胞の性質だけでなく、遺伝子多型性に規定される患者の免疫体質、喫煙や腸内細菌叢などの環境因子もがん微小環境の個人差に関与することが判明しているので、今後、これらの検討も可能な範囲で必要と考えている。免疫病態を制御する低分子化合物や抗体のスクリーニングと作用機序の解析では、すでに、がん細胞に加えて、さまざまな免疫細胞や間質細胞を標的として、さまざまな機序で、がん微小環境の免疫病態の改善、抗腫瘍T細胞の増強作用を示すことが分かりつつある。興味深いことに、このような研究は、単にがん免疫制御剤の同定だけでなく、予想外のがん免疫病態の機序の発見につながることが判明しており、スクリーニングで同定した化合物を用いて、さらに詳細な作用機序の解明とそれによるがん免疫病態の解明を進めることが重要と考えている。
河上裕, がん免疫療法~その効果と可能性, 学士会「夕食会・午餐会, 学士会館(東京都千代田区), 2017/9/8, 招待
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