研究課題
サーマルイメージングによって気孔応答をモニターする際の問題として、従来の環境制御チャンバーでは気孔の湿度応答とCO2応答を独立させて測定する環境を作り出すことが困難であった。それを可能にするためには、気孔の湿度応答がサイレントな高湿度環境下で体表面温度測定を行う必要がある。制御項目として温度と相対湿度ではなく、温度と絶対湿度を用いた環境試験機を用いることによって、安定した湿度環境を維持し、乾燥シグナル (ABA) 伝達系とCO2シグナル伝達系が相互干渉しないような環境を設定することができるようになった。このような高精度の環境試験機を用いることによって、純粋にCO2シグナル感知・伝達系に限定された変異株を得るための網羅的スクリーニングを行った。気孔開口を駆動するプロトンポンプAHA1の細胞膜への局在化を行う膜交通因子PATROL1の発見により、気孔開閉運動においてAHA1の膜交通を介した新たな制御メカニズムの存在が示唆されている (Hashimoto-Sugimoto et al. 2013)。エキソサイトーシス/エンドサイトーシスに関わる因子、セカンドメッセンジャーなどに対する特異的阻害剤を作用させたときのCO2濃度または光強度変化に伴う気孔応答性を調べた結果、特定のホスホイノシタイド分子種の量的変動がPATROL1機能に関わっていることが分かった。このホスホイノシタイド分子種の合成阻害剤は気孔開閉応答を阻害するが、阻害剤耐性シロイヌナズナ変異株を単離し、その原因遺伝子の同定と機能解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
2基の同一仕様の精密環境制御人工気象機によって対照反復実験が可能となっている。サーモグラフィ解析が困難であった高湿度での気孔応答の測定が可能となり、ABAシグナルを人為的でなく遮断した環境下でのスクリーニングに威力を発揮している。すでにこれまでに単離された気孔応答変異株とは異なるカテゴリーの表現型を持つ変異株の単離に成功している。
・孔辺細胞または副細胞、それぞれの細胞でのみPATROL1を発現させた場合のPATROL1やAHA1の挙動や気孔開閉運動への影響について調べる。2つの細胞間でエキソサイトーシス/エンドサイトーシスを引き起こす情報伝達物質、また、そのシグナル伝達経路について調べ、気孔開閉制御における役割について考察する。・シロイヌナズナSLAC1のCO2、ABAシグナルの受容に関わるリン酸化部位の情報を用いて、イネSLAC1における対応リン酸化部位を推定する。それらのリン酸化部位のアミノ酸を置換した改変型SLAC1をSLAC1機能欠失株(slac1変異株)に導入し、ドミナントネガティブ形質転換イネを作成する。高精度環境シミュレーターを用いた準フィールド環境におけるこの形質転換イネの環境適応力を評価する。・SCAP1の発現は気孔形成の終盤に限られている。SCAP1を異所的に発現させると植物は白化することからも、SCAP1の発現は時空間的に制御されていることが予想される。SCAP1の発現を制御している上流因子を同定することで、気孔成熟(機能化)の分子的なルートマップを作成する。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 2件、 招待講演 8件)
Nature
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J.Exp. Bot.
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