研究課題
チラコイド膜に含まれる脂質は葉緑体形成に必須であり、葉緑体内で作られる原核型と、小胞体を経由して作られる真核型の2つの脂質代謝経路を介して合成される。葉肉細胞の葉緑体は正常だが、孔辺細胞の葉緑体に異常をもつシロイヌナズナgles1変異の原因遺伝子は、葉緑体の包膜に存在し真核型脂質を葉緑体に輸送するTGD輸送体と関連する遺伝子をコードしており、gles1変異体では、真核型の葉緑体脂質が減少していた。またリピドミクス解析から、気孔細胞は葉肉細胞と比較して原核型の脂質代謝経路が退化しており、真核型の脂質代謝経路が発達しているというユニークな脂質代謝特性を示すことを明らかにした。gles1変異体では、CO2による気孔閉鎖応答が阻害され、気孔閉鎖を駆動するS型陰イオンチャネルの活性制御が損なわれていた。これらの結果は、真核型の脂質代謝経路は気孔の葉緑体形成およびCO2による気孔閉鎖応答に必須であることを示している。シロイヌナズナは原核型と真核型が同程度に機能する16:3植物であるが、気孔という特殊な細胞では真核型優位の18:3植物のように振る舞うことがわかった。気孔細胞における脂質代謝の真核型化は、気孔が開閉機能を調節する上で重要な意味を持っていることが示唆された。気孔閉鎖の鍵因子である孔辺細胞局在型陰イオンチャネルSLAC1タンパク質一次構造上の乾燥 (ABA) シグナルとCO2 シグナルの受信部位の情報に基づき、昆虫由来のトランスポゾンpiggyBacと相同組み換えを利用したイネのジーンターゲティング法を用いて、内在のSLAC1遺伝子を直接改変を試みている。現在、基本ベクターの整備を終え、変異型SLAC1遺伝子の作製を進めている。
2: おおむね順調に進展している
表皮系組織で唯一気孔孔辺細胞は葉緑体を保持しているが、この由来や機能については不明の点が多い。今回得られた知見から、この葉緑体が葉肉細胞の葉緑体とは異なる脂質代謝系をもつことが明らかになり、さらに気孔の光やCO2による制御と密接に関係していることが明らかになった。この葉緑体が、謂わば、気孔の環境制御における司令塔の役割を担っていることを示す知見が得られたことになる。
gles1と同様の表現型、すなわち、葉肉細胞葉緑体は正常に存在するが、孔辺細胞葉緑体が特異的に損なわれた変異体を単離し、その原因遺伝子の同定、葉緑体機能の解析を通じて、植物の複合環境適応における気孔細胞の高次情報処理システムの一端を明らかにする。
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