研究実績の概要 |
気孔開口を駆動するプロトンポンプAHA1の細胞膜への局在化に関与する新規膜交通因子PATROL1の発見により、気孔開閉運動においてAHA1の膜交通を介した未知の気孔制御メカニズムが示唆されている。エキソサイトーシス/エンドサイトーシスに関わる膜結合タンパク質、セカンドメッセンジャーなどに対する特異的阻害剤を作用させたときのCO2濃度または光強度変化に伴う気孔応答性を調べた結果、PI4Kインヒビターであるphenylarsine oxideがCO2濃度変化に伴う気孔開閉と同時に生じるPATROl1の孔辺細胞内及び副細胞内の協調行動を特異的に阻害することを見出した。このことは、気孔のCO2制御には、PI4Kによる生成物、ホスファチジルイノシトール4リン酸が関与していることを示唆する。さらに、PI3Kインヒビターが気孔の明暗応答のみを特異的に阻害することも見出した。よって、気孔開閉制御において、環境刺激毎に異なるホスホイノシタイドが関与する可能性がある。これらの知見をもとに、PATROL1が関与する気孔開閉メカニズムに関係した変異体のスクリーニングを行なった。野生株においてPAOを作用させると、特異的にCO2濃度変化に伴う葉面温度の変化が見られなくなる。そこで、約5,000個体のM2植物に対し、高精度CO2環境試験機を用いた精密差分サーマルイメージングによるスクリーニングを行い、PAO存在下でCO2応答性が復活する、すなわち、PAO薬剤耐性変異体 pai (PAO insensitive) を複数系統単離した。pai 変異の1つの原因遺伝子はホスホイノシチド生合成経路の鍵因子であることが判明した。また、別のpai 変異の原因遺伝子はホストイノシタイドの特定の分子種の量的スイッチングを担っており、膜交通と密接に関係していることが予測された。
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