研究課題
動物の生殖という現象は、神経系と内分泌系の巧みな協調によって調節されている。神経系で受容された温度・日長等の情報が、神経系・内分泌系の調節機構を通して生殖腺・配偶子の発達と性行動を協調的に調節し、生殖を成功に導く。本研究では、私たちが従来魚類脳の特徴を活かして世界をリードしてきた3種の異なるGnRHニューロン系と2 種の異なるキスペプチンニューロン系の研究を基礎とし、これらのペプチドニューロンを中心とした神経回路が生殖と性行動の協調的調節機能に果たす役割とその進化的意義を解明することを目的とする。この目的に沿って、分子から行動レベルまでの生物学的階層すべてを視野に入れた多角的かつ先端的な神経生物学的研究を行う。今年度は、以下のような研究成果をあげ、国内外の学会及び国際的なジャーナルにおける論文として研究発表を行った。モデル実験動物として我々の開発した遺伝子改変メダカを用いた、生殖の中枢制御に関わる神経回路の多角的手法を用いた解析 1)脳の視床下部にあるキスペプチンニューロンが、動物の繁殖状態に応じて神経活動や遺伝子発現を劇的に変化させるセンサーとしてはたらくことを発見(プレスリリース)2)視床下部ドーパミンニューロンによるGnRHニューロン制御機構の解析 3)キスペプチンニューロンの脊椎動物に共通する機能の解析 4)キスペプチン神経系の摂食・内分泌系に対する制御機構の解析また、研究成果に関するプレスリリース記事を東京大学のホームページにおいて発表した。その結果、「繁殖期に活発な働き」日経産業新聞朝刊(2014年12月3日)および「脳内ニューロンを発見 繁殖状態のセンサーとして働き繁殖期に特有な行動を制御」科学新聞(2014年12月12日)などで新聞報道され、研究成果を一般社会にも広く広報することができた。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度1年間だけで、本研究計画に関連して、Science誌を含む5報の原著論文を発表し、うち1論文の内容に関しては、上述したように、プレスリリースを行い、新聞各紙にも報道されるなど、情報の社会発信もできた。また、同一専攻内の研究室との共同研究の結果、申請者が長年の研究から作業仮説として提唱してきた、ペプチドニューロンの一種である生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH3)を産生するニューロンが、メダカの性行動において、異性を受け入れるときの行動の動機付けに強く関与することを、遺伝学、行動学、神経生理学、等の多角的な研究手段を用いて証明した。一方で、学会発表は、上述のような研究成果を、日本動物学会総会および関東支部会、日本神経科学学会、などの国内の学会で7演題発表するのみならず、国際的に最も評価の高い神経科学の学会である米国Society for Neuroscience Annual Meetingにおいて5演題、国際的に内分泌学の最大の学会であるEndocrine Society Meetingにおいて3演題発表したほか、フランス開催のヨーロッパ比較内分泌学会および岡崎における国際両生は虫類内分泌学会における招待講演を行った。それに加えて、申請者は大会長として札幌において国際神経行動学会(参加者約600名)を組織して開催すると共に、関連するワークショップ、一般講演会も開催し、一般発表も行った。今年度を中心として、メダカを用いて、生殖や性行動に関連したペプチドニューロンやその受容体、性ステロイドホルモン受容体、等の遺伝子をノックアウトしたトランスジェニック動物の作成に次々と成功し、続々と新たな発見をしつつある。このように、現在まで、研究計画は順調に進行していると考えている。
上記のように、現在までの所、当初の申請書に書いた実験計画に沿って着実に研究成果をあげており、大きな問題は無いが、当初想定しなかった意外な発見があった。それは、ほ乳類では生殖の中枢制御において欠くことのできない極めて重要なはたらきが想定されていて、我々もメダカで発見した当初は同様に生殖調節に重要と考えていたキスペプチンニューロンが、少なくとも真骨魚類においては、無くても機能的には全く不都合が生じない、ということである。我々は、これまでに、そのような事を示唆するいくつかの実験的な証拠をつかんできたが、本研究開始後キスペプチン関連遺伝子のノックアウトメダカの作成に成功し、その表現型解析をほぼ終えて、平成26年度のEndocrine Society Meetingで発表すると同時に、現在論文投稿準備中である。この研究成果と、ごく最近までに世界中で得られている文献的な証拠を元に考え合わせ、我々は、脊椎動物においてはむしろ例外的に、ほ乳類のみにおいて、キスペプチンニューロンが生殖制御の鍵を握るように、進化の途上で変貌してきたのではないかという説を提唱している。我々は、このような可能性を示す実験的な証拠を蓄積しつつ、一方で、このようなキスペプチンニューロンの、脊椎動物に共通する機能はどのようなものか、と言う根本的な疑問に答えるべく、各種の実験計画を新たに考え、実施してきた。現在の進捗状況からすると、来年度には、この問題に対するひとつの答が得られる見通しである。さらに、哺乳類以外の脊椎動物も含めて、脊椎動物に共通するような、性ステロイドホルモンからのフィードバックを受けて生殖機能を調節する脳内のメカニズムに関して、その実態を解明するための実験を計画し、実施中である。これに関しても、着実に計画を進めつつあるので、本研究計画の最終年度までには、一定の結論が得られる見込みである。
すべて 2016 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 13件、 招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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