研究課題
以下のような研究成果を、日本動物学会、日本神経科学学会、日本比較内分泌学会などの国内の学会で発表するのみならず、国際的にそれぞれの分野で最も権威のある米国神経科学学会、米国内分泌学会、第3回キスペプチン国際会議で発表した。以下に、学会ないし論文発表した主要な研究成果を要約する。1) キスペプチンニューロンの性ステロイドホルモンセンサー機能 本研究の一つの主なフォーカスである視床下部キスペプチンニューロン(遺伝子はkiss1)が、動物の繁殖状態に応じて神経活動や遺伝子発現を劇的に変化させるセンサーとしてはたらくことを発見した。2) GnRH1ニューロンの下垂体内軸索終末における分泌活動のリアルタイム計測 メダカのLH・FSH細胞を独立にCa2+インジケータinverse pericam(IP)で標識した遺伝子組換メダカを開発し、ほ乳類では実現不可能なGnRH1ペプチドによるLH・FSH放出動態の計測を、リアルタイムで可能にした。3) GnRH1ニューロンのもつグルコースセンサー機能 メダカでは栄養欠乏時にメスだけで生殖機能が抑制されるという興味ある現象を発見し、そのメス特異的な生殖抑制の脳内メカニズムの原因がGnRH1ニューロンにある事を証明した。4) 2種の脳下垂体ホルモンが生殖を調節するメカニズム 上記の脳下垂体ホルモンLH・FSHがそれぞれ異なる段階において生殖を調節するしくみを、メダカに最新のゲノム編集技術を応用してKOメダカを作成して表現型解析することで証明した。
2: おおむね順調に進展している
現在までの所、当初の申請書に書いた実験計画に沿って着実に研究成果をあげており、大きな問題は無く、むしろ当初想定しなかった意外な発見があった。それは、ほ乳類では生殖の中枢制御において欠くことのできない重要なはたらきが想定されていて、我々もメダカで発見した当初(Kanda et al., 2008)は同様に生殖調節に重要であろうと想像していたキスペプチンニューロンが、少なくとも真骨魚類においては、生殖制御には直接関わらない、ということである。我々は、これまでに、それを示唆する複数の実験的証拠をつかんできたが、本研究開始後キスペプチン関連遺伝子KOメダカの作成に成功し、その表現型解析をほぼ終えて、平成26年度末のEndocrine Society Meetingで発表すると同時に、現在論文投稿準備中である。この研究成果と、ごく最近までに世界中で得られている文献的な証拠を元に考え合わせ、我々は、脊椎動物においてはむしろ例外的に、ほ乳類のみにおいて、キスペプチンニューロンが生殖制御の鍵を握るように、進化の途上で変貌してきたのではないかという説を提唱している。我々は、このような可能性を示す実験的な証拠を蓄積しつつ、一方で、このようなキスペプチンニューロンの、脊椎動物に共通する機能はどのようなものか、と言う根本的な疑問に答えるべく、各種の実験計画を新たに考え、実施してきた。現在の進捗状況からすると、本研究期間内には、この問題に対するひとつの答が得られる見通しである。このような知見は、脊椎動物における生殖の制御やその生物学的意義や進化に関する理解する上で極めて大きなインパクトをもつと考えられる。
1) 排卵周期の形成メカニズム:雌の規則的な排卵周期(メダカでは1日)を形成するには、GnRH1ニューロンからのGnRH1ペプチド放出がある時期に同期化して起きることが必要と考えられる。GnRH1ニューロンをGFPで、脳下垂体LH細胞をCa2+インジケータータンパク質で、それぞれ標識したTGメダカを掛け合わせたダブルTGメダカを用いて、GnRH1ニューロンと脳下垂体を含む排卵周期の中枢制御の機構を、電気生理学とCa2+イメージングを組み合わせて解明する。2) HPG軸調節機構を形成する神経回路への生殖腺からの性ステロイドホルモンの入力:卵巣の作るエストロジェン(E)の上記神経回路への入力が予想されるが、その作用機序は不明である。そこで、メダカE受容体3種それぞれの特異的KOメダカの表現型解析を行い、脊椎動物でまだ十分に解明されていないこの入力の動作原理に迫る解析を行う。3) GnRH3 ニューロンや終脳腹側野等のE受容体(ER)発現ニューロンが形成する、生殖と性行動の協調的中枢制御機構を解明する。4) キスペプチン受容体遺伝子発現ニューロンをGFP標識したTGメダカを用いて、標識ニューロンのRNAseq解析と電気生理学的・形態学的解析によりキスペプチンニューロンの脊椎動物共通の機能を解明する。
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