研究課題
「ヘテロクロマチン制御様式と発生への影響の理解」多くの真核生物に保存された抑制クロマチンの目印であるヒストンH3の第9リジンのメチル化(H3K9me)が異所的に蓄積するシロイヌナズナの変異体ibm1では、さまざまな発生異常が誘発される。H3K9meの下流で働く因子を知るため、H3K9meはかわらず発生異常をサプレスする変異体を選抜し、H3K4脱メチル化酵素遺伝子を同定した。ibm1変異体でH3K9meが上昇し発現が低下する遺伝子の多くでH3K4meが低下すること、またこのサプレッサー変異では、ibm1による発現やH3K4meへの影響がなくなることから、H3K9meがH3K4meの脱メチル化を介して発現や発生の異常を引き起こしていることがわかった(Inagaki et al 論文投稿中)。「新奇DNA脱メチル化の分子機構理解」DNA脱メチル化効果を持つタンパク質VANCは、末端の逆位反復配列の崩れたDNAからトランスポゾンの解析を進める中で見いだした新奇因子である(Fu et al 2013 EMBO J)。VANCを発現させると、一群のトランスポゾンで全長にわたる脱メチル化が誘発される。標的トランスポゾンに対してVANCは大きな効果を持つが、興味深いことに、この効果は特異的で、配列の類似した一群のトランスポゾンのみで観察される。一方、VANCと構造の似た因子は末端逆位配列の崩れたトランスポゾンにに広く分布する。そこで、VANCでは影響を受けないトランスポゾンの持つ類似因子4種類をシロイヌナズナで発現させた。その結果、そのうちの1つで特異的転写脱抑制が観察された。また、ゲノムワイドのDNAメチル化解析の結果、これをコードするトランスポゾンに特異的な低メチル化誘発された。それぞれのトランスポゾンのコードする抗抑制因子が、それぞれ異なる配列に対して特異的な低メチル化と転写脱抑制を行うことが明らかとなった(Hosaka et al論文投稿準備中)。
1: 当初の計画以上に進展している
上述のように研究は計画どおりに進展している。これに加えてさらに、ibm1による発生異常をサプレスする変異から同定された遺伝子はジーンファミリーを作っており、そのそれぞれのメンバーによるヒストン修飾の変化を調べたところ、予想外の特異性を持つ因子が複数みつかった。この予想外の展開は、個体発生のみならず、環境応答におけるヒストン修飾の機能とも関連しており、今後、さらに研究を発展させられると期待している。
「ヘテロクロマチン制御様式と発生への影響の理解」現在論文投稿中の因子に加え、新たな働きを持つ因子と他の遺伝子との遺伝的相互作用を調べるとともに、これらの因子の局在や変異体クロマチン解析をゲノムワイドに行うことで分子機構の理解につなげたい。また、これらの解析を個体発生や環境応答の文脈で展開したい。「新奇DNA脱メチル化の分子機構理解」抗抑制因子の進化とともに、その標的の進化についても解析を行い、進化様式を明らかにしたい。また、これらの抗抑制因子と相互作用するタンパク質を探索しており、有力な候補がみつかった場合はその機能を調べることで、この配列特異的抗抑制における宿主因子の関与について検討したい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Sci Rep.
巻: 6 ページ: 23181
10.1038/srep23181.
PLOS Genetics
巻: 11 ページ: e1005154
10.1371/journal.pgen.1005154.
Plant Physiol
巻: 168 ページ: 1219-1225
10.1104/pp.15.00543.