• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実績報告書

抑制と抗抑制によるエピゲノム動態制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 26221105
研究機関国立遺伝学研究所

研究代表者

角谷 徹仁  国立遺伝学研究所, 総合遺伝研究系, 教授 (20332174)

研究期間 (年度) 2014-05-30 – 2019-03-31
キーワードエピゲノム / トランスポゾン
研究実績の概要

「ヘテロクロマチン制御様式と個体発生への影響の理解」ヒストンH3の第9リジンのメチル化(H3K9me)は多くの真核生物で抑制クロマチンの目印として働き、トランスポゾンなどの反復配列を抑制することが知られている。不思議なことにH3K9meは、プロモーターだけでなく、転写が抑制された配列の内部にも分布する。シロイヌナズナの変異体ibm1 (increase in BONSAI methylation 1)では、遺伝子内部にH3K9meが蓄積するとともに、発生異常が誘発される。この発生異常をサプレスする変異体を調べることで、遺伝子内部のクロマチン動態の意義にアプローチした。まず、このサプレッサー変異の原因遺伝子は、ヒストンH3リジン4の脱メチル化酵素をコードするLDL2だった。この変異体およびH3K9メチル化酵素の変異体を用いた遺伝解析とエピゲノム解析によって、遺伝子内部のH3K9meは、遺伝子内部のH3K4me1(モノメチル化)の脱メチル化を介してトランスポゾンの転写抑制を行っていることを見出した(Inagaki et al 2017 EMBO J)。
(ii)「新奇DNA脱メチル化の分子機構理解」
トランスポゾンVANDAL21のコードするタンパク質の一つVANC21は、VANDAL21コピーに特異的なDNAメチル化喪失と転写脱抑制を引き起こす(Fu et al 2013 EMBO J)。この機構の理解を目指している。これまでに、ChIP-seq(クロマチン免疫沈降に続く塩基配列決定)によって、このタンパク質のゲノム中での分布を調べ、その標的配列を見出した(Hosaka et al 2017 Nat Commun)。また、この標的配列の特殊な進化様式を示した。さらに、VANCと相互作用する宿主タンパク質をいくつか同定した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

以下の両課題で、オリジナリティーが高く、かつ波及効果の大きい結果が得られている。
(i)「ヘテロクロマチン制御様式と個体発生への影響の理解」遺伝子内部に抑制クロマチンが蓄積するシロイヌナズナの変異体ibm1 では様々な発生異常が誘発される(Saze et al 2008 Science)。この発生異常をサプレスする変異体を用いたアプローチで、遺伝子内のH3K4me1の重要性を示した(Inagaki et al 2017 EMBO J)。H3K4me1はこれまでエンハンサーの目印とみなされ、エピジェネティクスとしての研究は限られていた。現在進めている研究と合わせ、今後、エピジェネティクス分野の新しい流れの源の一つにできると考える。
(ii)「新奇DNA脱メチル化の分子機構理解」配列特異的な抗抑制活性を持つVANCタンパク質(Tsukahara et al 2009 Nature; Fu et al 2013 EMBO J)を調べた結果、この抗抑制因子がごく短い標的配列を認識すること、また、in vitroでもその配列のDNAに結合すること、標的配列がタンデムリピートを形成しながら速い進化をすることが明らかになった(Hosaka et al 2017)。短い配列とVANCタンパク質の組み合わせで、強い抗抑制作用を持たせうることから、エピゲノム操作の道具としても有用と考えられる(特許出願中)。配列特異的な遺伝子機能阻害法としてはRNAiが知られているが、配列特異的な抗抑制現象はこれまで知られておらず、基礎科学としても、応用技術としても大きな影響を持ちうると考える。

今後の研究の推進方策

「ヘテロクロマチン制御様式と個体発生への影響の理解」いくつかの変異体を用いた遺伝解析とエピゲノム解析によって、遺伝子内部のH3K9meは、遺伝子内部のH3K4me1(モノメチル化)の脱メチル化を介してトランスポゾンの転写抑制を行っていることを見出した(Inagaki et al 2017 EMBO J)。また、この発生異常誘発の鍵となっている遺伝子を見出し、これが病原体応答を仲介する経路であることを見出した(論文未発表)。この経路の解明を目指す。また、類似の経路で働く遺伝子の中に異なる標的特異性を持つものがあるので、これらの変異体のエピゲノム解析と遺伝学的解析によってその生物学意義を明らかにする。

(ii)「新奇DNA脱メチル化の分子機構理解」
トランスポゾンVANDAL21のコードするタンパク質の一つVANC21は、VANDAL21コピーに特異的なDNAメチル化喪失と転写脱抑制を引き起こす(Fu et al 2013 EMBO J)。この機構の理解を目指している。これまでに、ChIP-seq(クロマチン免疫沈降に続く塩基配列決定)によって、このタンパク質のゲノム中での分布を調べ、その標的配列を見出した(Hosaka et al 2017 Nat Commun)。また、この標的配列の特殊な進化様式を示した。さらに、VANCと相互作用する宿主タンパク質をいくつか同定した。今年度はその機能解析を進める。また、VANCによる抗抑制に関与する宿主因子を知るための変異体選抜を始めているのでこれを進める。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件)

  • [雑誌論文] Transposable elements, genome evolution and transgenerational epigenetic variation2018

    • 著者名/発表者名
      Hosaka, A., Kakutani, T.
    • 雑誌名

      Current Opinion in Genetics & Development

      巻: 49 ページ: 43~48

    • DOI

      10.1016/j.gde.2018.02.012

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Gene-body Chromatin Modefication Dynamics Mediate Epigeneome Differentiation in Arabidopsis2017

    • 著者名/発表者名
      Inagaki, S., Takahashi, M., Hosaka, A., Ito, T., Toyoda, A., Fujiyama, A., Tarutani, Y., and Kakutani, T.
    • 雑誌名

      EMBO J.

      巻: 36 ページ: 970~980

    • DOI

      10.15252/embj.201694983

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Evolution of sequence-specific anti-silencing systems in Arabidopsis2017

    • 著者名/発表者名
      Hosaka, A., Saito, R., Takashima, K., Sasaki, T., Fu, Y., Kawabe, K., Ito, T., Toyoda, A., Fujiyama, A.,Tarutani, Y., and Kakutani, T.
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 8 ページ: 2161

    • DOI

      10.1038/s41467-017-02150-7

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The histone H3 variant H3.3 regulates gene body DNA methylation in Arabidopsis thaliana2017

    • 著者名/発表者名
      Wollmann H, Stroud H, Yelagandula R, Tarutani Y, Jiang D, Jing L, Jamge B, Takeuchi H, Holec S, Nie X, Kakutani T, Jacobsen SE, Berger F.
    • 雑誌名

      Genome Biology

      巻: 18 ページ: 94

    • DOI

      10.1186/s13059-017-1221-3

  • [学会発表] 遺伝子内部のクロマチン修飾動態がシロイヌナズナのエピゲノム分化を仲介する2017

    • 著者名/発表者名
      稲垣宗一、高橋まゆみ、保坂碧、伊藤佑、豊田敦、藤山秋佐夫、樽谷芳明、角谷徹仁
    • 学会等名
      第11回日本エピジェネティクス研究会
  • [学会発表] シロイヌナズナの配列特異的抗抑制機構の早い進化2017

    • 著者名/発表者名
      保坂碧、斎藤絡、高嶋和哉、佐々木卓、樽谷芳明、角谷徹仁
    • 学会等名
      第11回日本エピジェネティクス研究会
  • [学会発表] トランスポゾンにコードされる抗抑制因子の特異性と多様性2017

    • 著者名/発表者名
      斎藤絡、佐々木卓、保坂碧、樽谷芳明、角谷徹仁
    • 学会等名
      第11回日本エピジェネティクス研究会
  • [学会発表] シロイヌナズナの配列特異的抗抑制系とその速い進化2017

    • 著者名/発表者名
      保坂碧, 斎藤絡、高嶋和哉、佐々木卓、樽谷芳明、角谷徹仁
    • 学会等名
      日本遺伝学会第89回大会
  • [学会発表] Evolution of sequence-specific anti-silencing system in Arabidopsis2017

    • 著者名/発表者名
      角谷徹仁
    • 学会等名
      France・Japan Epigenetics workshop 2017
  • [学会発表] DNA methylation and trans-generational inheritance in plants2017

    • 著者名/発表者名
      角谷徹仁
    • 学会等名
      Three Special Seminar
  • [学会発表] 配列特異的抗抑制系の進化2017

    • 著者名/発表者名
      角谷徹仁
    • 学会等名
      第40回日本分子生物学会

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi