研究課題
植物二次代謝産物のなかで最も多様な構造と強い生理活性を示すアルカロイド、特に、最も研究が進んでいるイソキノリンアルカロイド生合成系の分子進化の解明、代謝再構築による植物細胞・微生物発酵生産系の確立と、イソキノリンアルカロイドの線虫・動物培養細胞系を用いた生理機能評価を行い、以下の成果を得た。1) ケシ科ハナビシソウゲノムの次世代シークエンサー解析によって得られた約0.47Gb(N50;約800 kB、既報のRNA配列の95%を含む)の配列情報を元に、生合成遺伝子クラスターの解析を行うとともに、イソキノリンアルカロイド生合成に関わるCYP80, CYP82, CYP719ファミリー遺伝子の特徴的増幅を明らかにした。さらに、ハナビシソウのmacarpine生合成に関与すると推定されるP450遺伝子を特定した。2) ハナビシソウのイソキノリンアルカロイド生合成系において非MYC2型のbHLHが転写調節に関わっていることを明らかにするとともに、植物種間による制御の多様性を明らかにした。また、さらなる比較ゲノム解析の材料として、ウマノスズクサ等の培養細胞系を確立した。3) 微生物異種発現系によるイソキノリンアルカロイド生合成系の再構成を行い、レチクリンからstylopine、テトラハイドロベルベリンからdihydrochelerythrine、レチクリンからテバインの生合成系の再構築に成功した。4) イソキノリンアルカロイドの生理活性評価を行い、線虫とマウス3T3-L1細胞の脂質代謝における効果の違いを明らかにするとともに、その分子機能解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
ハナビシソウの解読できたゲノム配列長は、予定よりも少ないが、既知のRNA配列情報の大部分(95%以上)が含まれていること、また、論文によっては、より小さいゲノムサイズ(0.5 Gb)が報告されているものもあり、遺伝子重複(倍数性)の影響が大きいと推定している。また、得られた配列情報解析により、生合成遺伝子が複数存在するscaffoldや、イソキノリンアルカロイド生合成に関与するP450がクラスタ-形成しているscaffoldが見つかるとともに、配列の解析から、macarpine生合成に関与すると考えられる新規なP450遺伝子が特定されるなど、分子進化の解明につながる知見が集積しつつある。さらに、比較ゲノムを行うための分子ツールとしての転写因子に関して、ハナビシソウにおけるイソキノリンアルカロイド生合成系においても、オウレンのイソキノリンアルカロイド生合成系と同様に、非MYC2タイプのbHLHが生合成系を制御していることが明らかになる等、転写因子を起点とした遺伝子ネットワーク解析が着実に進捗している。なお、確立した培養細胞系の生育が遅いが、現在、細胞株の選抜を進めるとともに、植物体の確保も行っており、遺伝子解析に大きな支障はでないと考えている。一方、微生物系における生合成系の再構築、特に、モルフィン生合成系の再構築は、テバインの産生が可能になるなど、想定以上に進捗している。また、生理活性評価の結果、線虫とマウス3T3-L1細胞の特性の違いが明らかになる一方、複数の特徴的な作用を示す化合物が検出されてきており、今後の分子機構解明によって、新たな創薬シーズとなると期待され、ほぼ着実に研究は進捗していると判断している。
1) ケシ科アルカロイド生合成系の分子基盤解明を目的に、前年度得られたハナビシソウゲノム配列情報をもとに、イソキノリンアルカロイド生合成遺伝子のゲノム構造と発現ネットワークの解析を行う。特に、二次代謝系の多様性創出を制御するP450遺伝子を中心に遺伝子クラスターの解析とその遺伝子機能の同定を継続する。また、前年度、ハナビシソウにおいて明らかになった非MYC2型のbHLH転写因子とともに、オウレンで同定されているWRKY転写因子を用いた転写調節ネットワーク解析、ならびに、転写因子の転写後調節について解析を進める。2) 比較ゲノム解析による新奇なイソキノリンアルカロイド生合成系遺伝子の単離同定のために、ウマノスズクサのトランスクリプトーム/メタボローム解析を行うとともに、生合成系再構築を試みる。また、レチクリン経路とは異なるイソキノリンアルカロイド生合成系としてトコンのエメチン生合成系のトランスクリプトーム/メタボローム解析を行い、イソキノリンアルカロイド生合成系の多様性の分子基盤の解明と再構築を行う。3) 微生物異種発現系を用いたアルカロイド生合成系の再構築を考えるうえで、発現したタンパク質の高次の構造(メタボロン)を考慮する必要がある。同一菌体内での発現と遺伝子を個別発現した菌体の共培養による生合成の比較、あるいは、メタボロンの直接解析等、アルカロイド生合成系の最適化、ならびに、多様な生合成への展開を検討する。テバイン生合成系に関しては、微生物におけるアルカロイド生産系のさらなる最適化を検討する。4) 線虫とマウスにおけるイソキノリンアルカロイドの生理活性の違いを起点として、個々の化合物の生理活性発現機構について、さらに詳細に解析を試みる。
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http://research.kyoto-u.ac.jp/academic-day/2014/07/