研究課題/領域番号 |
26221201
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 文彦 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (10127087)
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研究分担者 |
南 博道 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (90433200)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2018-03-31
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キーワード | 植物アルカロイド生合成系 / 生合成系の分子進化 / 代謝工学と代謝再構築 / 有用二次代謝産物生産 / 生理機能評価 |
研究実績の概要 |
I. ハナビシソウのドラフトゲノム配列情報、ならびに追加支援により解読したRNA発現情報を元にP450/OMTや転写因子などの遺伝子機能の解析を加速した。dihydrosanguinarine 10-hydroxylaseとともにdihydrochelerythrine 10-hydroxylase活性を示す分子種を同定し、CYP82ファミリーの分子進化を考察した。また、ネットワーク解析等により、BIQ生合成系におけるERF転写因子の関与を明らかにし、その成果の一部を論文発表した。さらに、オウレンプロトプラストを用いたゲノム編集技術を確立した。 II. 追加支援を含めたRNA配列解析によりトコンシュート/培養根、ウマノスズクサ培養細胞/再分化シュート/塊根、ヒガンバナ緑葉/球根、ならびに、エンゴサク葉/塊茎の発現RNA配列を取得し、BIQ生合成系遺伝子のカタログ化を行うとともに、ウマノスズクサのcorytuberine合成酵素を同定した。また、イソキノリンアルカロイド(ベルベリン)分解菌の遺伝子解析により、微生物の代謝酵素(分解系)における分子進化に関する知見を得た。 III. モルフィナンアルカロイドの微生物生産をより改善するために、レチクリンをS体からR体へと変換する酵素STORRの大腸菌での効率的発現を検討するとともに、全合成を一菌体で行うための発現系の開発を行った。また、レチクリンをg/Lレベルで生産する実験系を確立し、論文発表した。 IV. マウス3T3-L1細胞/線虫を用いたIQAの活性評価を継続し、13-methylberberineによる強力な脂肪細胞分化細胞抑制効果は、細胞中の安定性によることを示唆する結果を得て、論文発表した。一方、脂肪細胞分化を促進する活性を示す化合物を見出し、その作用機構についても継続的な解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハナビシソウのゲノム(0.5 Gb)のうち90%以上が塩基配列解読され、その配列情報を用いた遺伝子機能解析をさらに進展させるとともに、追加の発現RNA解析を行い、遺伝子ネットワーク解析を加速している。次年度には、ゲノム編集による解析とあわせ、ネットワーク解析に大きな展開が期待できる段階になっている。 また、BIQ生合成系においても、ERF転写因子の関与が明らかになるとともに、WRKY転写因子の転写調節機構の解析が進み、BIQ生合成系の新たな制御系の展開が期待できる段階に進展している。 さらに、イソキノリンアルカロイドを分解する細菌の単離とその分子機構の解析が順調に展開され、複数の菌株において、その分解系酵素が保存されていることが明らかになっている。最終年度、イソキノリンアルカロイド生合成系ならびに分解系を植物界、微生物界を含めて、より広く理解できる様な段階になっている。 一方、微生物によるアルカロイド生産は、順調に生合成系の再構築が展開され、さらなる生産性の向上を目指した研究開発と論文発表を行っている。また、一昨年の博士研究員の補充により、着実に、研究が進展しており、この激化する競争を勝ち抜けると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
I. ゲノム解読によるケシ科アルカロイド生合成系の解明 ハナビシソウゲノム遺伝子配列情報をもとに、ゲノム構造、遺伝子機能の推定等の解析を進めている。特に、P450や転写因子などは、個別の遺伝子機能ととともに、配列全体の構造解析が完了しつつあり、ゲノム編集技術の活用とともに、網羅的遺伝子ネットワーク解析が加速されている。 II. 次世代シーケンサー(NGS)を用いた比較ゲノム解析による多様なアルカロイド生合成系の解析 トコン培養根、ウマノスズクサ培養細胞に加えて、エンゴサク、ヒガンバナのRNA配列が決定され、その生合成系遺伝子のカタログ化とともに、その比較解析により生合成系の分子進化の解明が大いに期待できる段階にある。一方、植物におけるアルカロイド生合成系と対をなす、微生物における分解系についても、複数のベルベリン分解菌のゲノム解析をもとに、分解酵素の分子進化についての知見が集積しており、今後、植物と微生物の代謝酵素(合成と分解)の総合的理解が期待できる。 III. 微生物異種発現系を用いたアルカロイド生合成系の再構成 モルフィナンアルカロイド合成の鍵となる(R)-レチクリンの供給については、レチクリンをS体からR体へと変換する酵素STORRの大腸菌での効率的発現とともに、一菌体での発現が着実に進行しており、実用的生産系の開発が期待できる。また、共培養系は、より簡便かつ柔軟な生合成系の再構築系として、そのライブラリーの拡大を行っている。 IV.多様なIQA化合物を用いた生理活性評価 マウス3T3-L1細胞を用いたIQAの活性評価の結果、線虫との応答の違いが見出された。この結果を受け、アルカロイド生合成系再構築において、benzophenanthridine型からprotoberberine型へのシフトと、より多くのprotoberberine型アルカロイドの調製を行っている。
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