研究課題/領域番号 |
26221202
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
入江 一浩 京都大学, 農学研究科, 教授 (00168535)
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研究分担者 |
久米 利明 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (10303843)
清水 孝彦 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任准教授 (40301791)
徳田 隆彦 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80242692)
村上 一馬 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80571281)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / アルツハイマー病 / 有機化学 / 核酸アプタマー / 抗体 / 脳脊髄液 / 毒性オリゴマー / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)の原因物質である42残基のアミロイドβ(Aβ42)は、2、3量体を基本単位としてオリゴマー化(凝集)することにより神経細胞毒性を示す。その際、Glu22及びAsp23付近にターン構造を有する毒性コンホマーがオリゴマー化しやすい。本研究では、2、3量体に特異的に結合する抗体ならびに核酸アプタマーを開発し、ADの迅速診断に応用することと、毒性コンホマーをとりやすいE22P-Aβ配列をノックインした新規ADモデルマウスを作出し、機能性食品成分による予防効果の検証を目的としている。 まず、抗毒性コンホマー特異抗体(24B3)を用いて、Simoaシステム(1分子ELISA技術を用いた新規イムノアッセイプラットフォーム)によるヒト脳脊髄液中のAβの毒性コンホマーの定量を行ったところ、AD群では対照群よりも毒性コンホマー量が有意に高かった。これより、従来のサンドイッチELISAと比べてSimoa装置の優位性が明らかになった。 次に、E22P-Aβ40の30、38番目でそれぞれ架橋した2量体モデルを合成したところ、38番目で架橋した2量体モデルは準安定なオリゴマーとして存在し、SH-SY5Y細胞に対してモノマーと同等以上の細胞毒性を示した。イオンモビリティー質量分析法により、この2量体モデルは12~24量体として長時間存在することが明らかになり、C末端の疎水性コアの重要性が示唆された。さらに、E22P-Aβ42の40番目で架橋した2量体モデルも同様の挙動を示したことより、このモデルに対するDNAアプタマーの作製を試みたところ、高い選択性を示す濃縮プールが得られた。 一方、ヒト型E22P-Aβ配列を含むAβ前駆タンパク質のノックインベクターを用いて、ノックイン動物の作製を開始した。その結果、昨年4月にキメラマウスが複数匹誕生し、更なる交配により数匹のヘテロノックインマウスを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はまず、毒性コンホマーに固定したE22P-Aβ42及びE22P-Aβ40のC末端で架橋した2量体モデルペプチドの合成に成功し、これらが神経細胞毒性を示す準安定なオリゴマー(12~24量体)を形成することを、イオンモビリティー質量分析法によって明らかにできた。これらの2量体モデルは、次世代の抗毒性オリゴマー抗体や核酸アプタマーを開発する上できわめて有用である。核酸アプタマーについては、このAβ42の2量体モデルに対するDNAアプタマーの濃縮プールを得ている(高結合性の混合DNA)。 昨年度、Aβ42のGlu22及びAsp23付近における毒性ターン構造をきわめて特異的に認識する24B3抗体と市販のN末抗体を用いたサンドイッチELISA(24B3-ELISA)を構築し、ヒト脳脊髄液を分析した。その結果、従来の診断基準の一つであったAβ42量の変化では、AD患者を識別できなかったが、AD患者に含まれる毒性コンホマー量(毒性ターン構造をもつAβ量)の割合が、対象群よりも有意に高いことが明らかになった。本結果は、2016年7月にSci. Rep.誌に掲載されるとともに、新聞、テレビなどでも取り上げられた。同時に24B3-ELISAは、毒性オリゴマー検出キットとして、2016年末から免疫生物研究所より市販されている。さらに、高感度なELISAであるSimoa装置を用いて、毒性コンホマー量のみでAD診断が可能であることも示した。 一方、ヒト型E22P-Aβ42(毒性ターンをとりやすい変異)配列を含むAβ前駆タンパク質のノックインベクターを用いて、2016年4月に複数のキメラマウスが誕生した。その後、更なる交配によって数匹のヘテロノックインマウスを得た。従って、来年度中に世界初の毒性コンホマーノックインホモ接合体が得られる可能性がある。 以上により、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成に成功したAβ42及びAβ40の各種2量体モデルペプチドをハプテンとして、2量体から形成される毒性オリゴマーを特異的に認識する抗体ならびに核酸アプタマーの作製を試みる。ごく最近、24B3抗体の特異性ならびに毒性オリゴマーへの結合能をさらに高めた抗体の開発に成功しており、今後これらの機能解析ならびにAD診断への応用を目指す。 また、昨年京都府立医大に設置されたシモア装置(1分子ELISA技術を用いた新規イミュノアッセイプラットフォーム)を用いて、上記の24B3の改良抗体による脳脊髄液の分析を行い、早期AD診断法を確立する。さらに、より簡便で侵襲性の低い血液において、毒性コンホマーの検出を試みる。なお、これらのヒト試料を用いた研究計画は、京都府立医科大学ならびに京都大学の医の倫理委員会により承認されている。 一方、研究分担者(久米)によって青ジソから単離された2',3'-dihydroxy-4',6'-dimethoxychalconeを対象として、マウスにおける体内動態(吸収、代謝、脳への移行)を調べる。さらに、E22P型(毒性ターンをとりやすい)ならびにE22V型(毒性ターンをとりにくい)Aβ42配列を、それぞれノックインした新規ADモデルマウスの作出を本格的に開始する。E22V型については少し遅れているが、E22P型については、年度末までに世界初の毒性コンホマーノックインホモ接合体マウスが得られるものと期待される。
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備考 |
アウトリーチ活動 入江一浩、村上一馬、久米利明:アルツハイマー病のより正確な診断手法、京都大学アカデミックデイ2016、京都大学百周年時計台記念館(京都市)平成28年9月18日;入江一浩:化学的手法に基づくアルツハイマー病の新しい予防戦略.グローバルサイエンスキャンパス京都大学(ELCAS 2016)、基盤コース、京都大学吉田キャンパス(京都)平成28年10月1日
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