研究課題
本研究は新しい化合物-標的相互作用検出技術を開発し、それを用いて未解明の天然物の標的分子と作用機構を明らかにすることを目的とする。(1)酵母遺伝子破壊株を用いた迅速解析系により約10,000化合物から標的経路を推定することができた1374化合物のうち、代表的ないくつかのものについて検証を行い、網羅的スクリーニングの結果の妥当性を証明した。(2)バーコードつきプール型shRNAライブラリーによる増殖定量系のための条件検討が完了したので、興味深い作用機構が推定されたAurilide BについてshRNAスクリーニングを実施した。その結果、ナトリウム/カリウムポンプを構成し、生体内のイオン恒常性に関わるATPA1遺伝子の発現抑制により、Aurilide Bの感受性が著しく高まることが判明した。また、ATPA1の阻害剤として知られるウアバインと相乗的な細胞死が誘導されることがわかった。(3)SIRT2は脱アセチル化酵素活性だけでなく、脱長鎖アシル化酵素活性を持つことがわかった。SIRT2阻害剤は、アシル基のためのポケットに入ることで脱アセチル化を阻害したが、脱長鎖アシル化を阻害しないことがわかった。その機序は、長鎖アシル化基質が阻害剤をポケットから追い出すという驚くべきものであった。(4)JBIR-140の持つチオアミド構造は、アミド結合の酸素が硫黄に変換された特殊な構造であるが、生産菌の生産量は低く作用機序不明である。そこで標的分子同定のため、生合成遺伝子を用いた異種発現生産による安定供給システムを構築した。JBIR-140生産菌は同時に類縁体を生産しており、培養毎にその生産比率が変わる問題があったが、今回の検討により、JBIR-140のみを安定に取得することが可能になった。また、海綿由来アルカロイドであるアジェラディンAの類縁体合成を行い、その神経分化誘導活性を評価した。
2: おおむね順調に進展している
新技術の開発の部分については、当初の計画で生じた問題を解決しなければならない課題もあったが、いずれも現在は問題を解決し、順調に進展していると考えている。一方、新規阻害剤の開発からエピジェネティクス関連因子の機能を解析するケミカルエピジェネティクスの課題においては、X線結晶構造解析を中心とした研究から当初の想定を超える驚くべき発見があり、今後予想以上の成果が期待されると考えている。すなわち、本研究によってNAD+依存的なヒストン脱アセチル化酵素の一つであるSIRT2が脱アセチル化活性だけでなく、脱長鎖アシル化酵素活性を有するという予想外の結果が得られた。SIRTファミリーにはヒトで7つの遺伝子が存在するが、SIRT1~3は相同性が高く、それら3種の酵素はクラスIとして分類されている。一方、進化上離れた別のクラスの酵素であるSIRT5やSIRT6には、最近様々な脱アシル化酵素活性が報告された。しかし、SIRT2はそれらとは異なり、X線結晶構造解析で明らかなアシル側鎖と相互作用する様なポケット構造が見られなかったことから、脱アシル化酵素活性が存在するのは考えにくいと思われた。しかし、本研究では、SIRT2が脱アセチル化だけでなく、構造の再編成を伴って脱長鎖アシル化を触媒する新規の酵素活性を有することが判明した。さらに発見したSIRT2の阻害剤は、脱アセチル化酵素活性を阻害するものの、SIRT2の脱長鎖アシル化酵素活性は、全く阻害できなかった。そのメカニズムは、構造解析から基質による阻害剤のキックアウトであることがわかった。すなわち、長鎖アシル化基質が近づくと阻害剤が排除され、脱アシル化酵素活性が発揮できるという新しいメカニズムを明らかにした。これらの結果は、当初の想定を超えた発見であり、ケミカルバイオロジーの特徴を生かした独創的研究に発展する可能性があると考えている。
天然物は生理活性の宝庫であるが、これまで作用機構が分子レベルで解明された例はごくわずかであり、巨大な研究資源の鉱脈がまだ眠ったままになっていると言っても過言ではない。その原因として、化合物の標的分子を同定し、作用機構を解明する研究には確立した方法論がなく、多くの場合標的の同定はきわめて困難であることが考えられる。我々は遺伝学的相互作用と物理的相互作用の組合せが必須であると考えている。本研究では、すでに網羅的な遺伝学的相互作用解析法として、分裂酵母遺伝子破壊株ライブラリー、出芽酵母遺伝子破壊ライブラリー、動物細胞用Pooled shRNAライブラリーを用いたバーコードシークエンスによる増殖定量系を確立した。そこで今後はユニークな作用を示す化合物を選抜し、作用機構解析を実施し、系の有効性を検証するとともに改良点を見いだす必要がある。一方、2つの活性を持つことが判明したSIRT2について、長鎖アシル化基質が脱アセチル化阻害剤をポケットからキックアウトすることによって阻害剤耐性の脱長鎖アシル化反応をもたらすことが判明した。この予想外の発見は、SIRT2の二重特異性が阻害剤存在下で変化することを示す。もし、細胞内に疎水ポケットを形成できる内在性SIRT2阻害剤が存在すれば、SIRT2は脱長鎖アシル化酵素としてのみ機能することになる。そこで生体脂質成分のライブラリーを構築し、内在性阻害剤のスクリーニングを行ったところ、いくつかのアシルアミド化合物にサブマイクロモルレベルの強力な阻害活性があることを見いだした。今後その生理機能を解析する予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (25件) (うち国際共著 3件、 査読あり 25件、 謝辞記載あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 12件)
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