研究課題/領域番号 |
26221302
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
成宮 周 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70144350)
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研究分担者 |
石崎 敏理 大分大学, 医学部, 教授 (70293876)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2017-03-31
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キーワード | mDia / アクチン / 神経可塑性 / TCRシグナリング / 腫瘍形成 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はアクチン細胞骨格を制御するRho-mDia経路の①神経可塑性、②T細胞活性化、③精子形態形成、④皮膚の癌化での役割と分子作用機序を明らかにすることである。これまでの研究で、①では、in vitroの初代培養神経細胞系において神経活動抑制時にmDia依存的なアクトミオシンの収縮力によってシナプス前終末の形態が収縮することを見出し、in vivoで社会隔離ストレスを与えたマウスにおいてmDia依存的な側坐核神経細胞のシナプス前終末の収縮、不安様行動の亢進が起こることを見出した。これらの結果はシナプス前終末における神経可塑性メカニズムの解明に大きく貢献することが期待できる。②では、mDia1/3が T細胞活性化に不可欠であることを見出し、mDiaがTCRの求心性移動に働き、この過程がTCRシグナル伝達を促進的に働いていることが明らかになった。これは不明であったTCR刺激によるアクチン細胞骨格の再編成がmDia1/3依存的であることを明らかにしたものである。③では、mDia1/3が精子形成を支えるセルトリ細胞で特徴的なアクチンの網目状構造を作り、このアクチン構造が精子の分化及び形態形成に不可欠なセルトリ細胞―精子の細胞間接着装置を制御していることを見出した。このことから、精子形成過程にセルトリ細胞側のmDia1/3依存的な網目状アクチンが重要であることが明らかとなった。④では、mDia1遺伝子欠損マウスは活性型Ras依存的皮膚がんモデルにおいて、野生型と比して有意に腫瘍形成が抑制されることを見出した。さらに、Rho-mDia1シグナル系によるRasの下流情報伝達経路の調節をin vitroで解析を行った結果、mDia1枯渇細胞では、ERKのリン酸化の減少を見出した。このことから、Rho-mDia1経路はRas依存性の皮膚腫瘍発生で重要な役割を担うことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①神経可塑性。in vitroの初代培養神経細胞において、mDia1/3のシナプス前終末への集積を示し、シナプス間隙末端付近にシナプス前終末の収縮に欠かせないmDia依存的なアクチン繊維が形成されることを見出した。それに加えて、社会隔離ストレスを与えたマウスで側坐核神経細胞のmDia依存的に不安様行動の亢進が起こることを示し、この時にシナプス前終末がmDia依存的に収縮を起こしていることを見出した。②T細胞活性化。mDia1/3 DKOにおいて、末梢Tリンパ球の数が減少していること、T前駆細胞のTCR刺激依存的な反応は減弱していること、またTCR刺激時のTCRマイクロクラスターとF-actin動態の連動が阻害されていることを見出した。昨年度はさらにmDia1/3を可逆的に阻害する薬剤を用い、末梢CD8 T細胞においても同様の表現型が認められることを明らかにした。③精子形態形成。mDiaの機能不全が雄性不妊の原因となること、そのメカニズムとして、mDiaが精子の正常な形態形成に必要不可欠であることを明らかにした。昨年度はさらに分子作用機序を解明し、セルトリ細胞内においてmDiaは網目状の F-actin構造の恒常的な重合・維持を行っていることと、それがセルトリ細胞―精子の細胞間接着を裏打ちする太いF-actin bundleと物理的につながっていることを見出した。④皮膚の癌化。DMBA/TPA二段階化学発癌実験によりmDia1欠損マウスではパピローマ形成が抑制されること、またin vitroでは活性型Ras導入細胞でmDia1を枯渇させると軟寒天培地での足場非依存性増殖が抑制されることを見出している。さらに、methylcellulose内で培養を行い、Rho-mDia1経路が足場非依存性増殖時に特異的にRas下流MEK-ERK-p90RSK経路を調節していることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
① 神経可塑性。論文投稿時に査読者に指摘された、培養神経細胞系で得られたmDia依存的なアクトミオシン収縮力がシナプス前終末の形態を制御するというメカニズムが実際にマウス個体で働いているのかについて検証を行う。平成28年度には、アクトミオシン収縮阻害薬と mDia阻害薬を社会隔離ストレスによって側坐核神経細胞のシナプス前終末収縮が惹起される腹側被蓋野に局所注入して、このシナプス前終末の収縮が解除されるとともに不安様行動の減弱が起こるかを検討する。② T細胞活性化。今後は、mDiaの活性を特異的に阻害する薬物を用いて、可逆的にmDia活性の阻害を行い、T細胞レセプターに加えてF-actinの動態をイメージングすることで、mDia依存的なアクチンがT細胞レセプターの動きとそれに伴うTCRシグナルに及ぼす影響の詳細を解析し、その実験結果を踏まえて出来るだけ速やかに論文作製及び投稿を行う。③ 精子形態形成。平成28年度は、初代培養セルトリ細胞のF-actinの超解像度イメージングとmDiaの一分子イメージングを組み合わせた実験を行い、mDiaによって作られるF-actinを直接に証明する。また、mDiaの活性を特異的に阻害する薬物を用いたmDia活性の阻害実験を行い、mDia依存的なF-actinがどのようにして細胞間接着装置を制御しているのかについて解析を行う。④ 皮膚の癌化。Rho-mDia1経路による足場非依存的な増殖の調節機構を、細胞周期関連蛋白質の発現およびリン酸化量のタンパクブロットで解析し、Rasによる細胞悪性化の分子機序を明らかにする。また、このmDia1依存的なRas情報伝達経路の調節が、DMBA/TPA二段階化学発癌モデルにおいて機能しているかについてIHCにより検証する。以上の解析を行うことでRhoシグナリングの癌化に果たす役割を明らかにする。
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