研究課題
炎症性腸疾患では腸管上皮細胞の機能不全による腸内環境破綻が難治性の原因と示唆される。申請者は腸管上皮幹細胞運命を人為的に制御し、腸内環境を改善させることが生体恒常性までもリセットすることにより炎症性腸疾患を根本的に解決できると着想した。申請者らが独自に確立した「腸管上皮幹細胞初代培養」と「幹細胞移植モデル」をさらに発展させ、擬似腸管環境モデル構築による腸管上皮幹細胞の運命制御及び腸管免疫・内分泌制御を含めた腸内環境・生体恒常性への関与を解明する。最終的には腸管上皮幹細胞による腸内環境、生体恒常性リセットという新たな機序を創成し臨床応用への基盤を構築するだけでなく、腸疾患に留まらず生活習慣病などの全身疾患を制御できるという新しい概念を提唱するものである。本年度はマウス小腸上皮オルガノイドと上皮間リンパ球をそれぞれ単離し、3次元培養にて培養を行った。種々の条件を検討し、リンパ球が長期間上皮細胞と共培養される条件を発見した。さらにリンパ球の遊走を可視化し、リンパ球活性化を定量的に評価するシステムを開発した。体外での異なる2種類の初代培養法は独創的であり、腸内環境擬似モデル確立への大きな発展となった。また、マウス大腸上皮オルガノイドを用いてサイトカイン、細菌菌体成分添加による上皮応答を確認した。添加のみでも十分な免疫応答が得られることを確認し、最大限の炎症応答が得られる条件を最適化した。さらに、1年以上の持続的な炎症刺激を行い経時的な解析を行った。興味深いことに、炎症刺激時間依存的に上皮オルガノイドの炎症シグナル応答が増幅・蓄積されることを発見した。上皮細胞を体外で経時的に解析可能な系は世界で初めてであり、疾患擬似モデルの基盤となった。
2: おおむね順調に進展している
マウス腸管での培養技術は確立済みであるが、炎症刺激など長期間安定した培養技術を改善・習得した。さらにヒト内視鏡検体からの小腸及び大腸のオルガノイドを安定して樹立可能としており、倫理審査委員会承認のもと炎症性腸疾患(IBD)患者からのオルガノイド樹立を定期的に施行していることからも当初の予定通りの成果と考える。また、疾患オルガノイドの幹細胞病態解明のためには客観的評価法の構築が必須である。そこで、当初の計画通り、遺伝子導入技術・1幹細胞可視化技術・水チャンネル機能評価技術・酸化ストレス評価技術を確立した。さらに、1幹細胞からの細胞系譜や、シングルセルPCRによる幹細胞プロファイル解析の確立から複数の幹細胞分画の存在を明らかとし、1陰窩内の幹細胞相互作用評価を確立した。腸内環境を模倣するために、上皮オルガノイドと上皮間リンパ球の共培養系の構築に成功した。リンパ球動態を可視化・定量化することで、相互作用評価を確立した。また、疾患擬似モデルとして長期炎症刺激モデルを構築しIBDの臨床経過を模倣した経時的な幹細胞形質転換解析を可能にした。以上より、生体内の環境を模倣した体外モデルを構築し、疾患オルガノイドによる病態体外モデル構築を可能にしたことから、当初の予定は達成したと考える。
今後の研究計画としてはこれまで構築した評価系をマウスからヒトの系に発展させると共に、in vivoでの評価を行う。マウス共培養系を応用し、ヒト同一人物によるオルガノイド・IEL共培養系を樹立する。すでに、同一人物内視鏡生検検体からのオルガノイド培養・IEL単離は確立しており、共培養条件を探索中である。オルガノイド食餌負荷モデルの構築に関しては、若齢マウスに高脂肪食負荷を行い、腸管短縮・腸炎を発症を確認する。このマウスからオルガノイドを樹立し、上皮細胞病態を解析すると共に、上記共培養系を用いて「リンパ球・腸内細菌・上皮細胞」の高脂肪負荷による相互作用を明らかとする。これまで樹立したIBDモデルオルガノイドをマウスに移植し、腸炎を発症するか確認する。消化管腺管配列異常や機能異常を評価すると共に、全身免疫系の変化をin vivoにて評価する。高脂肪負荷モデルに関しても同様の移植を行い、全身の吸収・代謝系の変化を評価することで、消化管上皮細胞における全身への制御機構を明らかとする。さらに、倫理審査承認のもと生活習慣病患者からも同意を得て内視鏡生検検体より上皮オルガノイド及び上皮間リンパ球を単離・培養を行う。これまで確立した評価手法を用いて、ヒト上皮オルガノイドの幹細胞機能・トランスポーター能などの生活習慣病病態を明らかとする。さらに上皮間リンパ球との共培養と腸内細菌応答系を総合的に解析することにより生活習慣病の腸内環境病態を明らかとする。最終的にはマウスに移植を行い、高脂肪負荷マウスと同じ表現型になるか確認するなどin vivoにおける全身代謝への影響を確認する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 謝辞記載あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 22件、 招待講演 7件)
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