研究課題/領域番号 |
26221309
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
須田 年生 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 卓越教授 (60118453)
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研究分担者 |
馬場 理也 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特任准教授 (10347304)
田久保 圭誉 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (50502788)
石津 綾子 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特別研究員(RPD) (10548548)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 幹細胞ニッチ / 巨核球 / 幹細胞老化 / 炎症性サイトカイン / 白血病幹細胞 / 人工ニッチ / 幹細胞制御 |
研究実績の概要 |
幹細胞は、予め幹細胞として運命づけられているというより、周辺の細胞や環境分子 (ニッチ) によって、その動態が影響されると考えられる。本来、ニッチは、生態学的適所を意味する概念的な語であったが、我々を含め近年の造血幹細胞のニッチ研究は、この数年間で飛躍的に進展し、その実体を明らかにしてきた。造血幹細胞は骨髄の中心部ではなく、内骨膜周辺 (endosteal region) にある (Calvi et al 2003, Zhang et al 2003) 。 我々は、幹細胞は、骨芽細胞 (osteoblastic niche) に接着して静止期にあること (Cell 2004) 、その制御に、アンジオポエチン-1 (Ang-1) / Tie2 (Cell 2004) 、トロンボポエチン (TPO) / Mpl (Cell Stem Cell 2008) などのシグナルが関与すること、細胞周期制御を行うATM遺伝子の破壊マウスにおいて、酸化ストレス (ROS) が蓄積し幹細胞機能が消失すること (Nature 2004) 、これらの異常が抗酸化剤投与によって回復することなどを示してきた (Nat Med 2006) 。 しかしながら、幹細胞は血管周辺 (vascular niche) に存在するという報告もあり (Kiel et al 2005, Sugiyama et al 2006)、造血幹細胞ニッチに関しては、いまだ論争中で決定的な見解が得られていないのでその検討を進めている。さらに、我々は幹細胞の代謝研究を世界に先駆けて展開し、低酸素下に発現したHIF1aが、幹細胞の糖代謝を亢進するという見解を発表した(Cell Stem Cell 2010 & 2013)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、造血幹細胞ニッチを特定し、制御の分子機構を解明し、生体内・外において幹細胞の自己複製・分化を操作することを目的とする。今年度は、造血ニッチの組織学的・分子論的解析に集中した。我々は、凍結骨切片の免疫染色を可能にすることにより、骨髄の組織学的解析を進めた。 今までに、類洞構造をもつ特殊な血管内皮細胞、破骨細胞、骨芽細胞、および間葉系細胞の特徴ならびに分化過程を明らかにしてきた。骨髄内の骨芽細胞は分化度、機能面では均質ではないことから、内骨膜性ニッチでは特定のニッチ細胞が造血幹細胞を維持するのではなく、間葉系前駆細胞や骨芽細胞を基本とした複数の細胞系列からなる「ニッチ複合体」が構成され、その構成細胞が機能分担・相互作用することで、幹細胞の静止状態の維持および自己複製能の制御を担っていると考える。今回新たに造血幹細胞から分化した巨核球が、幹細胞の静止期性を制御していることを見出した(Ishizu-Nakamura A et al, BBRC, 2014)。 また、その制御因子として、巨核球から産生されるトロンボポエチン(TPO)やC型レクチン様受容体のCLEC2によって制御されることを明らかにした(Ishizu-Nakamura A et al, in revise)。今後は骨髄造血の成熟過程における造血幹細胞ニッチ制御機構の変化、骨髄内での部位特異性を解析し、時空間的に特異的なニッチ制御の機構を明らかにすることにより、ニッチ複合体と造血幹細胞の相互作用の成立機構を解明していく。 現在、幹細胞に発現するRunx1遺伝子のenhancer(eR1)-GFPマウスを用いて、共焦点ならびに2光子励起顕微鏡により、生体内における造血幹細胞の動態を追跡しており、研究の進展は順調である。
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今後の研究の推進方策 |
in vivo imaging、超微細形態3次元の構造解析法を確立し、造血幹細胞とこれらのニッチ細胞との関連を明らかにする。また、我々は、静止期幹細胞は成体になって出現し、胎生期や生後の成長期には存在しないことを指摘してきた。その後、多くの研究が成長期の造血と成体維持期の造血の違いを指摘している。 そこで、成長期と成体維持期の造血幹細胞とそのニッチの経時的変化を詳細に検討する。すなわち、胎児肝、あるいは乳児期の骨髄では、造血幹細胞の多くが細胞回転をしている。また骨端にも血管内皮細胞が多く、成体に近づくにつれて減少する。このように幹細胞の状態およびニッチは、個体発生に伴い変化すると考えている。 我々は、すでに、出生後、造血幹細胞においてN-cadherinの発現は増加し、VE-cadherinは減少することを見出している。この際、網羅的なMicroarrayではなく、すでに集積されている造血幹細胞のデータベースをもとにFluidigm社のBiomark Systemを用いて、FACSで分取した幹細胞あるいはニッチ細胞をシングルセルレベルで解析し、組織学的に再検証する。骨髄の個体発生過程で、幹細胞の静止期性がいかに獲得されるかを、分子的に明らかにしていく。さらに、老化に伴う造血幹細胞のDNA損傷の蓄積、ニッチの機能的劣化について解析を進める。
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