研究課題
本研究は、ニッチ分子の同定とそのシグナル解析を行い、造血幹細胞の自己複製と静止状態を制御する系の確立を目指している。ニッチ細胞から産生される分子、接着分子を同定し、それらが幹細胞の維持・分裂にどのような作用を及ぼすかを解析する。現在、我々は、幹細胞は、ニッチに接着して静止期を維持し、ニッチから離れて活性型幹細胞になると考えているが、この仮説をより詳細に検証する。方法としては、FACSを用いて多様なニッチ細胞を分離し、遺伝子発現を検索し、その機能を、試験管内における幹細胞とニッチの再構成実験、遺伝子破壊マウスの移植実験などを用いる。今年度、我々は、巨核球Clec2欠損マウスの造血解析により、巨核球から産生されるTPO (トロンボポエチン)が、造血幹細胞の静止期性を制御していることを見出した。造血幹細胞のニッチとしては、間葉系細胞などの非造血細胞が考えられていたが、この「巨核球ニッチ」の場合、造血幹細胞の子孫細胞による制御で、フィードバックによる幹細胞の恒常性について検討することができるようになった。
2: おおむね順調に進展している
すでに幹細胞のニッチ分子として重要視されている3分子Ang-1、TPO (トロンボポエチン) 、N-cadherin (N-カドヘリン) のシグナル研究に関して先駆的研究を進めており、優位性があると考える。幹細胞とニッチの相互作用を明らかにし、この解析結果をもとに、臨床的には、造血幹細胞のホーミング、動員(mobilization)をin vivoで制御できるようにする。2015年度、我々は、造血幹細胞の子孫である巨核球が、TPOを介して、幹細胞の細胞周期を制御しているというデータを得ている。幹細胞が直接の子孫細胞によって制御されるFeedbackを検証し、外来性および内在性のニッチによる造血幹細胞システムの恒常性を解明する。
我々は、今までにAng-1/Tie2 (Cell 2004) 、TPO/Mpl (Cell Stem Cell 2007) などのシグナルが、ニッチ・造血幹細胞の相互作用に関与することを、世界に先駆けて同定し、その解析を進めてきた。本年度では、これらのシグナルが、幹細胞の細胞周期制御にどのように関わるかを、昨年度に引き続き、Tie2 conditional ノックアウトマウスを用いて検討する。ことに、Tie2とインテグリンシグナルの相互作用を明らかにする。さらに、幹細胞発現遺伝子のprofilingを進めて、幹細胞特異的遺伝子の発現と機能を解析する。特に、長期骨髄再建能のある幹細胞に特異的な分子マーカーを同定し、そのトランスジェニックマウスを作成して、幹細胞の生体内挙動とニッチとの相互作用をタイムラプスイメージングにより明らかにする。これらの検討により、外来性および内在性のニッチによる造血幹細胞の恒常性維持システムを解明する。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件)
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