研究課題
幹細胞ニッチに関する研究に関しては、巨核球から産生されるTPO (トロンボポエチン)が、造血幹細胞の静止期性を制御しており、子孫細胞が幹細胞の恒常性に寄与することを示した(J Exp Med, 2015)。造血幹細胞の代謝に関連した研究では、造血幹細胞は、解糖系によりエネルギーを得て、静止期を維持していること、その代謝調節に低酸素応答分子であるHIF-1αおよびその下流分子が関与していることを明らかにした(Cell Stem Cell, 2012& 2013)。このことは幹細胞が内骨膜の低酸素性ニッチにあることと一致し、幹細胞がROSに感受性が高いこととも関連すると考えられる。また、分担研究者の馬場理也らと、がん抑制遺伝子であるFolliculin(FLCN)変異マウスを用いて、造血幹胞における酸化的リン酸化の代謝シグナルを解析し、その造血幹細胞が、細胞回転をし、Apoptosisを起こすことを示した(Stem Cell, 2015)。さらに、オートファジー関連分子ATG7欠損マウスの造血幹細胞ではミトコンドリアの蓄積、並びに、幹細胞機能の低下を認めた。また、Tie2陽性造血幹細胞は、生体内でも自己複製分裂を示す頻度が高いことを示し、これらの自己複製幹細胞は、一部 Autophagy機構 によって維持されていることを明らかにした(Science, 2016)。造血幹細胞におけるDNA 損傷反応における研究では、Cyclic di-GMP/STINGやInterferonが造血幹細胞の増殖を抑制することを見出した(Cell Rep, 2015)。また、p53関連アポトーシス促進因子であるASPP1の欠損は、造血幹細胞の特性を向上させるがDNA損傷Fociの消失が遅延すると共に、白血病発症のポテンシャルが劇的に上昇することも見出した(Cell Stem Cell, 2015)。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者の須田年生が、2014年から2015年にかけて、研究室を、慶應義塾大学から熊本大学に移動したのに伴い、多少の立ち遅れがあったが、慶應時代からの多くの共同研究者の支援と本大型研究費によって、研究は順調に進み、初期の目的は果たしていると考えている。本研究の前半の成果により、新たな課題が立ちあがっており、その解決に、後半も努力したい。
今年度は、先行研究に基づき、造血幹細胞におけるミトコンドリア代謝・オートファジーを、研究分担者梅本晃正らとともに進める。FLCN KO マウスの造血細胞においては、ミトコンドリア量・活性の増大、酸化的リン酸化の亢進が見られたので、どのような引き金で代謝が変換するかを検討する。また、オートファジー関連分子であるATG7欠損マウスの解析を通して、ミトコンドリア量の造血幹細胞に及ぼす影響を検討する。これらの研究により、ミトコンドリアエネルギー代謝の制御による造血幹細胞の in vitroでの維持・増幅の技術開発を行い、幹細胞ex vivoいしょく増幅への新たな応用を目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 9件、 招待講演 10件)
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