研究課題/領域番号 |
26221310
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小守 壽文 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (00252677)
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研究分担者 |
川根 徹也 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 技術職員 (00265208)
宮崎 敏博 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (10174161)
森石 武史 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (20380983)
増山 律子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (60297596)
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研究期間 (年度) |
2014-05-30 – 2019-03-31
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キーワード | 発現制御 / 細胞・組織 / 発生・分化 / 歯学 |
研究実績の概要 |
骨粗鬆症の治療において、骨吸収抑制剤は、ビスフォスフォネート、SERM、抗RANKL抗体とかなり充実してきた。一方、骨形成促進剤は、注射薬であるPTH製剤のみで、投与期間も2年間と制限されている。したがって、長期投与できる経口の骨形成促進剤が不足している。Runx2は、骨芽細胞分化のマスター転写因子であるとともに、軟骨細胞の後期分化にも必須な転写因子である。Runx2の骨芽細胞での発現上昇は、骨芽細胞分化を促進し骨量を増やすが、軟骨細胞でのRunx2発現誘導は、軟骨の破壊、すなわち変形性関節症を引き起こす。したがって、副作用なく骨形成を促進させるためにはRunx2を骨芽細胞でのみ発現誘導する必要がある。Runx2遺伝子領域のBACクローンを用いたGFPレポーターマウスを作製し、Runx2の生理的発現を再現、その後ゲノムを順次欠失させたGFPレポーターマウスを作製することにより、骨芽細胞特異的エンハンサーを同定した。 さらにこのエンハンサーを用いて化合物のハイスループットスクリーニングを行い、エンハンサーを活性化し、骨芽細胞でのみRunx2を発現誘導する化合物を同定した。骨芽細胞にこの化合物を添加すると、ポシティブコントロールとして用いたBMP2と同程度に、骨芽細胞分化(アルカリホスファターゼ活性、石灰化、骨芽細胞分化マーカー遺伝子の発現誘導)が促進された。この化合物あるいは溶媒のみを卵巣摘出を行ったマウスに5週間投与し、マイクロCTで観察した。化合物投与群は溶媒投与群に比較し、海綿骨、皮質骨ともに有意な上昇を認めた。血清の生化学的検査で肝機能異常、腎機能異常等は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
軟骨細胞特異的エンハンサーは、当初1領域と想定していたが、実際は複数領域にわたっていた。高頻度で全身の成熟軟骨細胞でGFPを発現するマウスを得るために、P1, P2プロモーターを含む様々な領域を組み合わせたGFP tgマウスを作製・解析する必要があった。また、生理的重要性を判断するために、それぞれの領域の欠失マウスも作製・解析したため、時間はかかったが、同定に成功することができた。 Runx2 mRNAを上昇させ、骨芽細胞分化誘導能を持つ非常に有望な化合物を得ることができた。その周辺化合物にも活性の高いものが多く、当初の期待以上の化合物であった。その化合物の生体内投与で、海綿骨、皮質骨ともに増加させることができた。さらに、Runx2 mRNAを著明に低下させ、骨芽細胞分化を抑制する化合物が得られたことは、予定以上の結果である。その作用機序を解明し、その分子標的が明らかにできれば、Runx2 mRNAを上昇させ、骨芽細胞分化誘導能を持つ新たな化合物を見出すことも可能になる。また、骨代謝研究に非常に有用なツールとなる。 骨芽細胞・軟骨細胞特異的エンハンサーkoマウスの作製は、当初それぞれ1領域を想定していた。しかし、両者ともに複数存在することが判明したため、エンハンサーに特徴的なクロマチン修飾を持ち種間で配列が保存されている領域を、独自に行ったChIP sequence及びデータベース解析により選定、網羅的に欠失マウスを作製していくことにした。当初は、ES細胞を用いて欠失マウスを作製していく予定であったが、CRISPR/Cas9システムを導入し、網羅的な欠失マウスの作製を可能にした。さらに、複数の領域を同時に欠失させることも可能になり、当初の予定以上の成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
発現cDNAライブラリーのスクリーニングにより、軟骨細胞特異的エンハンサーを活性化する分子を同定する。同定した遺伝子の発現ベクターを導入し、エンハンサーのレポーターアッセイを行い、エンハンサー活性化を確認する。また、それらのコンビネーションによるレポーター活性を調べ、転写因子複合体の構成分子を絞り込む。ChIP解析により、上記の転写因子・共役因子がエンハンサー領域に結合しているか調べる。また、EMSAによりDNA結合を、プルダウンアッセイにより蛋白ー蛋白結合を調べる。直接DNA結合している転写因子の結合配列に変異を導入し、レポーター活性を調べるとともに、変異を導入したトランスジェニックマウスを作製、軟骨細胞での発現が消失するか調べる。さらに、enChIP法でエンハンサーおよびプロモーターに結合する転写因子群を同定する。これらの結果をもとに、転写因子・共役因子複合体の構成分子を決定する。また、capture Hi-C法により、どのエンハンサーとどのプロモーターが会合しているか明らかにする。 軟骨細胞特異的エンハンサーを用いて化合物ライブラリースクリーニングを行う。さらに初期培養軟骨細胞のマイクロマス培養を用いて、Runx2 mRNAレベル及び軟骨細胞分化を調べ、促進、抑制する化合物を選定する。変形性関節症実験モデルマウス及び自然発症STR/ORTマウス、そしてコントロールマウスに上記で選定した化合物を投与し、高解像度マイクロCTで関節軟骨破壊を比較する。 単一のエンハンサー欠失マウスの受精卵に別のエンハンサー領域を認識するガイドRNAとCas9を導入し、2つのエンハンサー領域を同時に欠失させたマウスを作成する。これを繰り返し、全てのエンハンサー領域を欠失するマウスを作成、解析する。
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