研究課題/領域番号 |
26240029
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
池井 寧 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (00202870)
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研究分担者 |
広田 光一 電気通信大学, 情報システム学研究科, 教授 (80273332)
北崎 充晃 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90292739)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 身体的追体験 / 身体運動感覚 / 歩行感覚 / 受動運動刺激 / 抹消刺激 / 皮質刺激 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は, 他人が行った行動(身体運動)を,あたかも自分が体験したものとして「追体験」するための基礎技術を構築することである. 単に運動を再現するのではなく自分で行動しているという,疑似能動感を誘発する追体験を実現する新規五感提示手法を探求する. 具体的な対象は,歩行運動の定常歩行から,停止・走行を含む運動の過渡状態,および階段や多様な踏面での身体姿勢の変化に対応した運動感覚の再現である.多感覚提示の最適化により疑似能動運動感覚の創成を目指した. 課題1. 身体運動感覚生成の機序と適合刺激の解明 A. 受動運動刺激---身体を外的に運動させる刺激および抹消神経(FES)を与え, 能動的な運動と等価または能動運動相当に感じられる際の適合刺激の特性を実験的に明らかにした.実際運動として,平地歩行と階段昇降,および走行を取り上げて,実際運動とその表現のために合成した刺激の運動感覚の受容特性を定量的に評価した.その結果,ディスプレイの運動提示の最適化および,多感覚刺激の相互作用が身体運動感覚の提示において重要な効果を有することが示された.抹消神経刺激について運動感覚の表現に適合する刺激の状態の予備調査を行い,適合刺激の概略を得た.B. 皮質刺激による修飾---皮質に対する刺激が運動感覚に与える効果について,継続的に調査を行った. 課題2. 身体運動感覚を生成する多感覚のディスプレイ構造の解明 身体的追体験を実現するためには,受動的刺激で能動的な身体感覚を生成する必要があるが,運動刺激に等価的な効果を有する映像と気流による身体運動感覚の効果を定量的に調べた. 課題3. 身体運動記録システムについて,身体装着型センサと外部設置光学センサによるデータを取得し,追体験システムを構築する場合の特性を定量的に計測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1. 身体運動感覚生成の機序と適合刺激の解明 A. 受動運動刺激---身体を外的に運動させる刺激として,座席運動による前庭感覚刺激提示装置を新たに開発して利用した.下肢部の運動刺激は両足を各2自由度で駆動する提示システムを用いた.上肢部の運動刺激として,両手を駆動する機構を構築して用いた.これらの運動刺激に加えて,運動に伴って皮膚刺激を生ずる気流を生成するためのディスプレイとして顔面および両手先を対象とした構成を用いた.更に,映像刺激としては,運動に伴って変動する映像をHMDで全天周提示できるように構築した.これらにより,複数刺激を提示した際の相互作用の存在下での適合刺激を求めた.同時に,複数刺激の組合せ方,すなわち少数の刺激の組合せにおける自己運動感覚の変化を計測し,各刺激が与える運動感覚への効果を求めた.また,抹消神経刺激(FES)を下肢に与えることにより, 能動的な身体運動と等価または能動運動相当に感じられるために必要な適合刺激を求めた.加えて,能動性の感覚を与える手法を検討するために,一部に能動運動を取り入れることで受動運動の効果の変化を調べた.B. 皮質刺激による修飾---皮質刺激によって運動感覚が変化することについて,関連研究があり,この効果について調査を行った. 課題2. 身体運動感覚を生成する多感覚のディスプレイ構造の解明 身体的追体験を実現するためには,受動的刺激で能動的な身体感覚を生成する必要があるが,自己運動感覚を誘導する映像,気流を身体運動刺激と同時に提示する構造で効果があることがわかった.身体的体験の能動性を加えるために,部分的な能動運動を導入する構造についても検討を行った. 課題3. 身体運動記録システムについて,身体装着型センサと外部設置光学センサによるデータを取得して運動モデルを構築する手法を明確に確認した. 以上,研究は順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
課題1. 身体運動感覚生成の機序と適合刺激の解明 運動感覚の計測は,多様な条件下で体系的に能動運動感覚を評価する実験であり,時間を要するため,各条件のデータ取得を継続する.これにより,機械的刺激およびFES を用いた歩行・走行の能動的運動感覚に最も適合する条件を取りまとめる.提案書で,拡大条件と書いた足底振動刺激,視覚刺激,聴覚刺激,気流刺激については,相互作用の効果を含めて確認が進んでいるが,さらに調査を継続する.運動感覚の生成において,受動運動に能動的身体運動を加える場合の関係を探る観点を導入したが,この構成方法は複数のパタンがあり,得られる体験の質が異なると予想されるため,この関係を求める.これにより,身体スキーマの構造化を目指す. 課題2.身体運動感覚を生成する多感覚のディスプレイ構造の解明 機構構造の試作は特に上肢について行うと同時に,前庭感覚ディスプレイの改造構築をおこなった.これらの構成は,身体運動の新しい刺激の生成に極めて有効であることが分った.この構造は,自由度の拡張を行うことで,有望な展開が期待できるため,更に改良を行う.より多くの運動プロファイルについて,これによって表現することを試みる.また,多感覚の相互作用を継続して調査することにより,多感覚/疑似能動運動感をともなう追体験の実現手法を明らかにする. 課題3.身体運動記録システムと五感オーサリング構造の解明 追体験の対象となる先行体験者の四肢・体幹・頭部の運動の中で,追体験の中心を構成する運動要素について,空間計測装置で計測できる構成,および視覚提示の手法を明らかにする.
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