研究課題/領域番号 |
26240037
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
橋本 敬 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90313709)
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研究分担者 |
鮫島 和行 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (30395131)
森田 純哉 静岡大学, 情報学部, 准教授 (40397443)
金野 武司 金沢工業大学, 工学部, 講師 (50537058)
奥田 次郎 京都産業大学, コンピュータ理工学部, 教授 (80384725)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 記号コミュニケーション / 二者同時脳波計測 / 実験記号論 / ミラーシステム / 位相同期 / Phase Locking Value / 認知アーキテクチャ / ベイズ推定モデル |
研究実績の概要 |
メッセージ付き同調課題の行動データに対して,相手と環境の状態遷移確率を推定するベイズ推定モデルを作成し,参加者ペアを定量的に分類することができた.この結果に基づきペアを成功・失敗の群に分け,課題実行時の二者同時脳波計測データに対して脳波パワーと位相同期の解析を進めた. パワー解析では,抽象的記号によるコミュニケーションシステムの形成におけるミラーシステムの関与を調べた.1被験者解析の方法を導入し,コミュニケーションがある課題とない課題の比較を行った結果,成功群のコミュニケーション課題でのみ運動野におけるアルファ波抑制が見られ,視覚野では成功・失敗にかかわらず抑制があった.したがって,運動野のアルファ波抑制は,記号形成時に知覚運動によるシミュレーションが関与していると解釈できる. 位相同期解析では,記号コミュニケーションシステム成立過程の脳波位相同期の変化を,Phase Locking Valueを用いて調べた.これは,複数試行における位相のばらつき程度の指標で,視覚刺激に意味を見出す等の認知活動を反映する.成功群は課題初期において,図形メッセージを受信後にガンマ波帯で同期(150~300ms)・脱同期・同期(450~750ms)という変化を示す.異なる認知活動の切り替え時に同期間の脱同期が見られることが既存研究で示されている.本研究では,図形の認識と記号としての意味解釈という認知活動の切り替えを反映している可能性がある.課題後期で記号システムの共有ができているときは,500ms以降の同期が強まり長くなった.失敗ペアではこのような特徴は見られなかった.これらから,記号の意味解釈には,500ms以降のガンマ帯の同期が関与していることが示唆される. また,認知アーキテクチャによる計算モデルの解析より,暗黙的記憶がコミュニケーションシステムの共有を促進する効果があることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究では,タスクの成功率で実験参加者を成功・失敗に分けていただけであったが,内的な認知過程を推定し分離できる状態遷移確率を推定するベイズ推定モデルの構築に成功した.これにより参加者群をより適切に群分けできるようになった点は大きな進捗であった. 前年度の脳波パワー抑制の研究では,アルファ波抑制が,記号に関する活動ではなく,視覚処理や課題への集中と解釈するほうが妥当であるような結果であったのに対し,今回は新たな解析方法の導入により記号形成にミラーシステムの関与をより強く示唆できる結果を得られた.この点は順調な進展であるが,この結果はまだジャーナル論文としての発表に至っていない(査読後改訂中). 位相同期の解析は,興味深く既存研究と照らし合わせても妥当な結果が得られているものの,まだ解析している被験者数および検定が不十分であり,結果の確定が遅れている.位相同期ネットワーク間の類似度を測定しなくてはならないが,まだこれを行うための適切な指標を作成できていない.
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今後の研究の推進方策 |
脳波パワー抑制の研究は,記号コミュニケ―ションシステムの形成におけるミラーシステムの関与をより明確にしめす. 位相同期の研究では,まずは統計的解析を進めて結果を確定させる.また,他の周波数帯の解析,および,記号メッセージ受信時以外のイベントでの解析も進め,記号コミュニケーションに関わる脳活動を,同期というダイナミクスの観点で理解することを進める.さらに,複雑ネットワークの解析方法を導入してネットワーク間の類似度として適切な指標を同定し,「記号コミュニケーションの形成により,二者の脳活動,特に,機能的結合のネットワークが類似してくる」という仮説について検討を進める. モデルベース強化学習の計算モデルにより,行動と脳波の解析も含めて,記号コミュニケーションの形成過程の認知活動を包括的に理解できるモデルの構築を進める. そして,意味創造活動を調べられる課題の開発を進める.これまでの検討により,単純な記号と意味の対応ではなく,記号の階層的構造と意味を対応させるという人間言語の重要な性質が,複雑な意味の表現だけではなく,意味の複合による新しい概念の創造に関係していると考えている.従って,階層構造と意味の対応を実験的・モデル的に検討する方法を開発する.
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