研究課題/領域番号 |
26240045
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松林 伸幸 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (20281107)
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研究分担者 |
三本木 至宏 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (10222027)
石塚 良介 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (30462196)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 溶媒和 / ゆらぎ / 構造エネルギー / 静電相互作用 / 分散引力 / 排除体積効果 / 分布関数理論 / 分子シミュレーション |
研究実績の概要 |
タンパク質構造に対する共溶媒効果を、全原子モデルで解析することが、本研究の目的である。分子動力学シミュレーション(MD)とエネルギー表示溶液理論を組み合わせて、水和効果と共溶媒効果の自由エネルギー解析を行う。自由エネルギーを構成する相互作用成分(水素結合・分散引力・排除体積効果など)の中から、効率的なタンパク質構造変化を導く成分を同定し、共溶媒によってタンパク質構造を制御するための指針を策定する。27年度は、尿素変性の分子論を展開した。cytochrome cタンパク質を対象として、純水溶媒から尿素-水混合溶媒への移行自由エネルギーと溶質-溶媒相互作用エネルギーの変化を計算し、エネルギー成分の相関を解析した。移行自由エネルギーを、尿素からの寄与と水からの寄与に分割した結果、前者が支配的な役割をすることを見出した。尿素変性の直接機構を支持する結果である。さらに、溶質-溶媒相互作用エネルギーの静電項や分散引力、および、排除体積自由エネルギーとの相関解析によって、移行自由エネルギーは分散引力によって規定されることを見出した。静電項および排除体積項は、尿素からの寄与と水からの寄与が互いに相殺することで、移行自由エネルギーと相関しない。尿素変性が分散引力によって引き起こされることを示す。また、タンパク質-溶媒相互作用エネルギーを、主鎖からの寄与と側鎖からの寄与に分割した結果、主鎖と側鎖の移行自由エネルギーとの相関は同程度であることを見出した。主鎖と側鎖の両方が、尿素変性に寄与することを意味する。次いで、27年度は、アルキル化尿素の力場の作成を行った。モノメチル尿素、モノエチル尿素、ジメチル尿素の電子状態計算を行い、RESP法によって部分電荷を決定した。水との混合挙動をMDによって評価し、実験値との良好な一致が得られることを、予備的計算で確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、全原子モデルを用いたタンパク質丸ごとの自由エネルギー計算を行っている。26年度に自由エネルギー計算のプロトコルをほぼ確立し、27年度は網羅的な計算を主とした。また、27年度の解析の主眼は、溶質-溶媒相互作用エネルギーの静電項や分散引力、および、排除体積自由エネルギーとの相関である。これに必要なものは、相互作用成分を静電相互作用や分散相互作用に分割し、排除体積効果の計算を行うプログラムである。26年度にプログラムを作成し、27年度は大量のタンパク質構造データを扱うことができるように高度化した。また、上に、27年度は網羅的な計算を行ったと述べたが、そのために必要となるのは、タンパク質の構造データの集合である。27年度は尿素変性の機構を研究したので、unfold構造を含むタンパク質構造の集合を用意する必要がある。しかし、単に尿素を添加してMDを行うだけでは、タンパク質の構造変化の時間スケールには届かず、unfold構造のサンプリングができない。本研究では、尿素を添加したタンパク質水溶液系を、一旦高温に上げ、その後常温に戻すことで、unfold構造のサンプリングを行った。高温状態でタンパク質は大きく構造を変える。常温に戻すと、その状態に近いような尿素-水混合溶媒中での準安定構造がサンプルされることになる。MDの時間スケールでは、常温に戻した後でも天然構造に戻ることはない。つまり、高温を経由することで、尿素-水混合溶媒中でのunfold構造がサンプルされる。もちろん、それらの構造は準安定状態であり、高温MDの結果に依存する可能性があるため、数本のMDからサンプリングを行った。相関解析では、数本のMDサンプリングから取得された構造を一括して取り扱った。これも、準安定構造の取り方による結果の任意性を無くすためである。
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今後の研究の推進方策 |
エネルギー相関解析の対象とする共溶媒の種類を増やす。27年度に、モノメチル尿素、モノエチル尿素、ジメチル尿素の電子状態計算を行い、力場を構成した。また、アルキル化尿素だけではなく、アルコール類も解析の対象とする。予備的計算によって、水との混合挙動が実験と良好な一致を示すことを見出しつつあり、28年度は、まず、混合挙動の結果を確定する。混合溶媒系におけるタンパク質の取り扱いについては、27年度と同様に計算を進めることができると考えている。ただし、タンパク質丸ごとの自由エネルギー計算であるため、多量の計算資源が必要となる。研究室内のPCクラスタに加えて、外部のスパコンも用いる予定である。尿素変性の場合は、分散引力成分が支配的な寄与をすることを見出したが、共溶媒の種類を変えると、1つの相互作用成分だけが支配的に寄与するのではなく、複数の相互作用成分が重要な役割を果たす可能性があることを予備的解析で見出している。このような場合は、多変量統計解析を用いて、各相互作用成分の寄与の重み(決定係数)を決め、タンパク質構造変化との関連に対する順位づけを行う。また、アルキル化尿素系における変性構造は、27年度に検討対象とした尿素系におけるものと同じとは限らない。そこで、アルキル化尿素系における解析では、Q値を変性のオーダーパラメータとして、Q値との相関をも解析することで、より詳細な構造情報を取り入れた相関解析を進める。Q値を用いた解析は、28年度に新規に導入するものであるため、アルキル化尿素系での解析に先立って、27年度に取り扱った尿素系での解析も行う。アルコール類を共溶媒とした場合も同様であり、この場合は、変性だけではなく、タンパク質の天然構造の安定化という逆方向の作用もありうる。アルコール類の場合は、構造パラメータを導入し、構造情報を取り入れた解析を行うことを予定している。
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