研究課題/領域番号 |
26241003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小池 真 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00225343)
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研究分担者 |
谷本 陽一 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (00291568)
中村 尚 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (10251406)
中村 卓司 国立極地研究所, 研究教育系, 教授 (40217857)
松井 仁志 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (50549508)
大島 長 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 主任研究官 (50590064)
中島 孝 東海大学, 情報理工学部, 教授 (70408029)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エアロゾル / 雲物理 / 数値モデル |
研究実績の概要 |
エアロゾルの雲への影響(エアロゾルの間接効果)は、気候変動を引き起こす有効放射強制力の最大不確定要因である。この不確定性を克服するためには、エアロゾルという物質科学と、気象学を融合させた新しい統合的研究が必要である。本研究の目的はこのような統合的研究アプローチにより、西太平洋の下層雲を研究対象として、海面水温(SST)と境界層の構造に着目することによりエアロゾルが直接引き起こす雲微物理量の変化(雲のミクロな変化)と、その結果として生じる雲厚や雲量などの雲のマクロな変化を素過程に基づいて理解し、間接効果を数値モデルなどにより評価することである。 H28年度は2009年の春季東シナ海・黄海で実施されたエアロゾルと下層雲の航空機観測を対象とした数値モデル計算と解析を実施した。雲底でのエアロゾルから雲粒活性化プロセスにおいて、数値モデルの計算格子では解像できない乱流の効果をいれることにより精度をあげた計算を実施した。この結果、温暖なSSTをもつ黒潮域において、大陸からの寒気の吹き出しにともなう大気の最下層の鉛直安定度の低下により、エアロゾルから雲粒への活性化が増幅されることを示唆する結果が得られた。このような黒潮域での雲粒数濃度の増大は、人工衛星データを用いた解析からも示唆されたもので、航空機観測、人工衛星データ解析、数値モデル計算とで整合的な結果が得られたことになる。 H28年度にはまた、2013年の夏季の西部北太平洋での下層雲の航空機観測のデータ解析と、それを数値モデルにより表現するための準備を行った。解析の結果、非降水時には雲水量が雲底から高度とともに増加するという断熱的な雲と定性的に整合的な鉛直構造を持つ一方において、降水時には鉛直方向に大きな変動をもつ層状の構造をもつことが明らかとなった。これを数値モデルで計算をする準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は計画どおりに、2009年の航空機観測を対象とし、SSTの影響を精度よく表現するための改良を加えた数値モデルにより計算を実施した。この結果、大陸からの乾燥した寒気の吹き出しによりSSTと海表面気温(SAT)との差(SST-SAT)が増大することなどにより、顕熱と潜熱のフラックスが増大し、乱流を含む上昇流速度が強化されていることなどが明らかとなった。 H28年度にはまた計画どおりに2013年の航空機観測を対象とした数値モデル計算の準備を行った。 このようにH28年度は当初予定どおりに研究が進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は最終年度となるために、4年間の研究成果を統括していく。 第一に、昨年度までの研究により、エアロゾルから雲粒活性化計算に用いる鉛直流速の表現の改良が2009年の航空機観測の結果をよく再現できる可能性のあることが明らかとなったため、より定量的な評価を実施する。またこのような数値モデルの改良に基づき、SSTがエアロゾルからの雲粒活性化にどのような影響を与えるか評価を行う。特に昨年度までの人工衛星データの解析研究により黒潮域における高いSSTがエアロゾル濃度に対する雲粒数濃度の比率を高めている可能性が示唆されたため、その効果の再現と、メカニズムの解明を試みる。 第二に、昨年度までに実施した2013年の夏季の航空機観測のデータ解析研究により、夏季の降水が雲や境界層の鉛直構造に影響を与えていることが示唆された。亜熱帯東太平洋との対比を行いながら、SST、大気の鉛直構造、エアロゾルなどの雲への影響を評価する。特に降水・非降水のそれぞれの雲について、雲微物理・雲のマクロ構造に着目した研究を進める。 これらの研究成果を論文としてまとめていく。
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