研究課題/領域番号 |
26241005
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
村岡 裕由 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (20397318)
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研究分担者 |
村山 昌平 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 研究グループ付 (30222433)
中路 達郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (40391130)
斎藤 琢 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助教 (50420352)
野田 響 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 研究員 (60467214)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 森林生態系 / 光合成 / 土壌呼吸 / 温暖化実験 / リモートセンシング / 同位体 |
研究実績の概要 |
高山と苫小牧の落葉広葉樹林で野外温暖化実験を実施した。葉群フェノロジーおよび光合成能から着葉期間の光合成生産量を推定した結果,日中気温が約1.5度上昇することによりミズナラでは約18%増加することが示唆された。苫小牧でも土壌温暖化操作実験を継続して行った。2サイトでの土壌温暖化実験により土壌呼吸速度の温度依存性が季節変化することを見いだしてモデル化を進めている。 森林生理生態的特性の分光指標開発のために,苫小牧では主要樹種であるミズナラ,イタヤカエデなどの個葉の連続分光放射率,形質,光合成活性の同時測定を行い,分光情報による予測モデルの開発を試みた。前年に引き続き大発生した植食性昆虫の被害により,個葉の形質ならびに光合成活性に対する土壌温暖化の有意な影響は検出されなかった。複数樹種における形質予測モデルの予測誤差と決定変数は,窒素濃度とLMAそれぞれで16.2%, 0.80ならびに11.8%, 0.80と比較的高い精度を示した。高山ではこれまで蓄積してきたデータから個葉の分光特性のフェノロジーを解析して,改良版SAILにより群落の季節変動との関係を解析した。このモデルの広域適用のために衛星データ解析に着手した。 高度化した生態系モデルを利用して,落葉広葉樹林および常緑針葉樹林の総一次生産量の気候変動応答特性の予備的な解析を行った。その結果,現在(2005年頃)と比較して将来(2070年頃)には両森林ともに総一次生産量が増加する傾向が見られたが,その季節性に違いが確認された。 夜間の生態系呼吸に対する土壌呼吸と葉呼吸の寄与度の推定の高精度化のために,大気-葉内間の同位体分別の計算スキームの改良を試みた結果,気孔コンダクタンスの推定法の改良がさらに必要であることが分かった。水の同位体測定装置を用いた実サンプルの分析を開始し,土壌水や大気中水蒸気の同位体データの蓄積を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高山試験地および苫小牧研究林における野外温暖化実験は順調に進められている。気象条件の年変動や植食性昆虫の大発生により森林の葉量等に影響が見られることもあるが,これらの環境変動の影響も含めて森林炭素循環の解明を進めることができていると考えている。幹呼吸速度の測定手法が安定したため平成27年度は高山の落葉広葉樹林において高木(ミズナラ,ダケカンバ)の幹呼吸速度の季節変化を観測することができた。この手法を高山の常緑針葉樹林にも適用する予定である。 森林光合成生産力とその季節性のリモートセンシング手法の開発については,個葉スケールでの分光情報と形質情報の関係性が明確になるとともに,放射伝達モデルによる森林スケールの分光情報の生理生態学的解析・予測ができるようになり,衛星データへの適用の準備も整ってきた。このまま解析を進めることで,本研究課題が目指した衛星ー生理生態の結合がさらに発展すると考えている。 生態系モデルを用いた炭素循環の現状診断と将来予測についても現在と将来気候予測モデル値を用いた解析が順調に進んでおり,すでに落葉広葉樹林と常緑針葉樹林とでは将来気候に対する光合成生産量の応答が異なることが示唆されており,日本の森林生態系炭素循環の予測研究としても非常に興味深いデータが出ている。これについてはこのまま進めていく予定である。 生態系呼吸を土壌呼吸と植物呼吸に分離する手法の検証と改良については,観測データと理論モデルを用いた研究が進められており,モデルに一部問題も発見されたのでそれを生理生態学と大気物理学の両面から検証して解決が図られると考えている。平成26年度に導入した同位体分析装置の安定的な運用も見込まれるようになり,蓄積してある試料の分析を進めることにより当初計画が実施されていくと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
高山および苫小牧の落葉広葉樹林における葉群光合成生産力と土壌炭素動態に関する温暖化実験は順調に進んでおり,成果が着実に出ている。平成28年度には高山サイトで得られた観測データの論文を執筆するとともにモデル化を進め,長期観測データおよびモデル解析結果との照合を行う予定であり,本課題の当初の目標を概ね達成していると判断している。高山では落葉広葉樹の幹呼吸速度の季節性の測定手法が確定して順調にデータが蓄積され始めており,今後も定期的な観測を継続する。また苫小牧では根系の温暖化応答とともに学会発表を行い,現在投稿準備中であり,高山でも根系の温暖化応答観測を続けている。これらの成果は当初の想定以上のものであると考えている。 森林キャノピーの光合成生産力のリモートセンシング指標の開発については,高山と苫小牧のそれぞれで個葉の分光観測データを用いた季節性を組み入れた推定モデルの精度検証を順調に進めてきた。これまでの解析により個葉からキャノピー,さらに広域の観測・解析手法が見えてきて順調に手法構築が確実に進んでいるので,今後はそれぞれのサイトで得られた知見およびモデルの汎用性の検証,および衛星観測データを用いた広域への適用を実施する。 大気化学的な観点からの炭素循環機構の解析については初年度に導入した同位体分析システムの運用が安定してきたので高山サイトで蓄積されたデータの分析を進めながら今後も定期的な試料採取と観測により森林の光合成・呼吸プロセスの時間変動の解析に基づいて夜間の生態系呼吸に対する土壌呼吸と葉呼吸の寄与の推定法の改良に取り組む。森林と大気の間のガス交換のモデル解析精度を上げるために生理生態学的観測データに基づいて気孔コンダクタンス予測サブモデルの精緻化を進める予定である。
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