研究課題
高山の落葉広葉樹林(TKY)および常緑針葉樹林(TKC)において樹木幹の呼吸速度の季節変化パターン,および無雪期間中の幹呼吸速度の温度反応様式を明らかにした。TKYサイトでは林冠構成樹種の個葉光合成特性の季節性の観測を温暖化実験区内外で継続した。加えて,林床低木の光合成生産力の季節性を現地での個葉特性の定期観測とモデル解析により調査して,低木の光合成生産と林冠葉群の季節性の関係を明らかにした。酸素同位体比データを用いた、生態系呼吸に対する土壌呼吸と葉呼吸の寄与の推定の高精度化のために、高山サイトにおいて大気、土壌空気、土壌水、大気中水蒸気、降水試料の採取を継続した。試料の同位体比分析を進めて同位体比の変動に関するデータを蓄積した。葉呼吸に伴う酸素同位体比の推定のためのモデルの改良の検討を進めた。同位体を用いた各呼吸の寄与の推定結果と比較するために、当サイトで実施している渦相関法によるフラックス観測や土壌呼吸観測のデータの解析を行った。林冠の光合成生産力の季節性および環境応答のリモートセンシング観測のために,高山サイトでは前年度までに発表した個葉光合成特性のモデルにならって分光特性のフェノロジー解析を進めてモデル化を進めた。苫小牧サイトでは分光放射観測データとLAIとの関係について季節を通じて解析して,分光植生指数による林冠観測の地上検証を進めた。東アジアの炭素分配の特徴を明らかにするとともに生態系モデルの検証データに供するために、高山サイトを含む東アジア地域のタワーフラックス観測、生態プロセス調査などによる総一次生産量、純一次生産量、純生態系生産量、リター量、生態系呼吸量などの年積算値の文献調査を実施し、これらを「The compilation data set of ecosystem functions in Asia version 1.1」として、限定公開した。
2: おおむね順調に進展している
数年間にわたって実施してきた落葉広葉樹の林冠葉群の温暖化実験データが十分に蓄積しており,高山サイトでの過去10年以上にわたる長期観測データとの比較解析が可能な段階に達したと判断している。これらのデータの一部を用いて,岐阜大学高山サイトでの観測データに基づいた炭素循環・収支の将来予測研究に関する論文が国際的にレベルの高いジャーナルに掲載された。また,幹呼吸速度については観測手法が確立して季節変化パターンの検出が可能になったので,これらのデータと葉群光合成生産力との関係解明に着手する段階まで進んだと考えている。本課題で購入した同位体分析装置の稼働も安定化したので,水の同位体分析を本格化することができた。葉呼吸に伴う酸素同位体比の推定のためのモデルの改良を早急に進める必要がある。林冠葉群のリモートセンシング観測技術については,気象条件や植物の生理生態学的状態が異なる年を含む複数年のデータが蓄積したので,データ解析を進めてモデル化を行い,光合成生産力の分光特性を明らかにするための研究を続ける。上述の報告のとおり,個葉レベルでの分光特性のフェノロジーモデルについては国際学会で発表して手応えを得ているので論文化および広域への適用を進める。
葉群フェノロジーの観測を続けて,葉の個葉形質とフェノロジーの温暖化応答特性の総合的な解析を進める。森林CO2フラックスや同位体の観測を継続するとともに、これまでに得られたデータを用いて、夜間の生態系呼吸に対する土壌呼吸、葉呼吸の寄与の推定例を増やし、推定精度の向上と推定法の改良を図るとともに,変動要因の解析を進める。また,葉群の生理生態,幹呼吸,土壌呼吸速度の時間的変動や環境応答特性を総合的に分析して生態系炭素循環モデルに導入することにより,現在気候と将来気候での森林炭素動態と収支の予測シミュレーションを早急に進めることとする。また高山サイトでの土壌温暖化実験による土壌呼吸の季節性と温度応答特性,植物根成長に関するデータ解析を進めているところであり,これは平成29年度に論文化する予定である。さらに,高山および苫小牧サイトで生理生態学的な観点で検証する分光放射観測データを用いて光合成生産力のモニタリングに適した指標を検討し,従来型の植生指数との比較を行うことによって新指標を提案する。地上検証を行った指標を用いて山地森林流域のスケールでの衛星画像解析を進める計画である。平成29年度は最終年度であることから,以上すべての観測データやモデル解析による知見の取りまとめを行い,国内外の学会やジャーナルでの論文発表を行う。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 10件、 招待講演 1件)
Agricultural and Forest Meteorology
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