研究課題/領域番号 |
26241018
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
STRUSSMANN C.A. 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (10231052)
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研究分担者 |
大竹 二雄 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20160525)
近藤 昭彦 千葉大学, 環境リモートセンシング研究セン, 教授 (30201495)
山本 洋嗣 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 助教 (10447592)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地球温暖化 / 指標種 / 温度依存型性決定 / トウゴロウイワシ目魚類 |
研究実績の概要 |
2014年度は、南米原産トウゴロウイワシ目魚類Odontesthes hatcheriのY染色体上に存在する雄性決定遺伝子amhyが、同属のO. bonariensisにも存在することを明らかにした。本種は、性決定機構が強い温度依存性を示すため、南半球における本研究の指標生物の第一候補である。この発見により、amhy遺伝子の有無を指標に個体の遺伝的性(XYかXX)を判別し、表現型性(精巣か卵巣)と照合することで、これまで不可能だった性転換個体(XY-雌、XX-雄)を検出することが可能となった。さらに、ゲノムDNA上におけるamhy遺伝子のコピー数の差をqPCRで定量することで、XYとYY(超雄)個体を判別する方法を開発した。これら開発した性転換・超雄個体検出法を用いて、実際にアルゼンチン(チャスコムス湖、フニン湖、他3つの湖正式名?)における野生集団のフィールド調査を行ったところ、チャスコムス湖のペヘレイ野生集団(n=158)から、12尾のXX-雄(出現率:8%)、4尾のXY-雌(4%)、2尾のYY-個体(1%)、105尾のXY-雄(66%)、35尾のXX-雌(22%)を検出し、本湖では、低出現率ながら、性転換個体および超雄が存在することが明らかとなった。一方、北半球における指標種確立へ向けた研究では、日本沿岸に生息する海産トウゴロウイワシ目魚類であるギンイソイワシHypoatherina tsurugaeに着目し、本種が温度依存型性決定機構を持ち、性決定時期に経験した水温に依存して高温では雄へ、低温では雌へ性が大きく偏ることを明らかにした。さらに、amhy遺伝子が、ギンイソイワシにも存在することを見いだし、本種においても性転換個体を検出することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、地球温暖化と気候変動が魚類資源とそれを取り巻く生態系に与える悪影響を事前に予測するため、世界各地に分布し、なおかつ水温起因の生殖障害が生じやすいとされているトウゴロウイワシ目魚類に着目し、「魚類繁殖機構に及ぼす地球温暖化・気候変動影響の早期警戒指標の構築」を最終目的としている。本指標種は、(1)性が強い温度依存性を示す事、さらに(2)性転換個体を検出する為の遺伝型性(例:XX, XY)判別マーカーが確立されている事、という2つの特徴を兼ね備えている必要がある。2014年度において我々は、南米、東南アジア原産のトウゴロウイワシ目魚類であるO.bonariensisおよびH.tsurugaeの性決定機構が強い温度依存性を示し、両種において遺伝型性判別マーカーとして利用可能なamhy遺伝子を見いだした。さらに、O.bonariensisにおいては、実際に野生集団において、水温起因とみられる性転換個体及び超雄個体の検出に成功した。本研究では、トウゴロウイワシ目魚類5属を調査対象としているが、初年度でその内2属が本研究の指標種として実際に利用可能であることが示されたことから、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
指標種として利用可能である事が示された2種においては、野生集団のフィールド調査を継続的に行う。さらに、性転換と異常水温の因果関係を明らかにするため、耳石微量元素(Ca, Sr等)を用いた個体レベルでの経験水温履歴推定技術の確立に取り組む。また、調査対象種の生息エリアの水温を広範囲に監視するため、リモートセンシングによりサンプリング地点の水温を推定し、現地に設置されたデータロガーに実際に記録された水温との整合性を検証し、高精度にバリデートする。より性の温度感受性が高い指標種を探索するため、本研究の調査対象である残りのトウゴロウイワシ目魚類3属(Chirostoma属、Atherinella属、Atherion属)の生殖機能に及ぼす水温の影響に関する基礎的情報収集を行うとともに、遺伝型性判別マーカーの探索を行う。
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