研究課題
本年度は、キルギス共和国のパミール山脈と中国天山山脈の氷河で、氷河生物調査を行ったほか、国内では富山県立山,山形県月山で、積雪中の雪氷藻類の調査を行った。パミール山脈のレーニン氷河では、近年の微生物群集の変化を明らかにするために、氷河涵養域の標高5300m付近で底部岩盤に達する36mのアイスコアも採取した。これまで世界各地の氷河から採取してきたシアノバクテリアの集団遺伝学的遺伝子解析を、従来分析に用いられてきた16SrRNA遺伝子より進化速度の早い16S-23S ITS領域を用いて行った結果、氷河上のシアノバクテリアには地理的な遺伝的分化があり、3グループに分かれることが示された。アラスカの氷河に生息するコオリミミズおよびパタゴニア氷原の氷河カワゲラを対象に共生細菌群集構造解析を行った結果、コオリミミズ・氷河カワゲラ共に、共生細菌の群集構造が生息氷河表面の細菌群集構造と大きく異なることが判明した。また、氷河無脊椎動物の共生細菌群集は、氷河由来と推定される細菌系統に加えて、従来の氷河微生物研究ではほとんど検出されてこなかった、動物の腸内や細胞内に特異的に共生する細菌系統によって構成されることが明らかとなった。さらに、16S rRNA配列を標的にしたFluorescence in situ hybridization (FISH)によって宿主内での細菌種の局在を特定することにより、動物腸内特異的に共生する細菌種に加え、一部の氷河由来細菌種も氷河無脊椎動と強固な共生関係にある可能性が示された。生物活動による氷河融解加速について理解するために、黒い氷河であるブータンヒマラヤのガンジュラ氷河の2011年以降の質量収支を解析した結果、本氷河は周辺地域の氷河より縮小速度が特に速いことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
予定していた海外での氷河調査もほぼ順調に進行していること。アイスコア試料など、採取された大量の試料の分析にはまだ時間を要するが、これまでの分析から既に多くの新たな知見が得られていること、特に氷河微生物及び氷河に生息する無脊椎動物の共生細菌の遺伝子解析により、氷河微生物の生態や地理的分布に関する理解が大きく進みつつあること、氷河微生物が氷河融解に及ぼす影響を評価するモデルができつつあることから、概ね順調であると判断した。
最終年度は、これまで得られた試料やデータの解析を進め、成果を取りまとめるとともに、継続調査を行っている中国天山山脈の黒い氷河と、近年顕著な環境変化が報告されているグリーンランドの氷河での再調査を行う。グリーンランドでは、2014年に調査したカナック氷河で氷河表面の微生物相調査を再度行い、変化を検討する。国内では、融雪期の立山、月山で積雪中の雪氷藻類の調査を行い、成果を取りまとめる。氷河上で暗色のクリオコナイトを形成するシアノバクテリアに関しては、より多地点の試料に対して次世代シークエンサーを用いた網羅的解析をおこない、より詳細な集団遺伝学的解析を実地することによって、地理的な遺伝的分化を明らかにする。氷河無脊椎動物の共生細菌群集に関しては、共生細菌が有している遺伝子の機能を、メタゲノム・メタトランスクリプトーム解析を行うことによって詳細に把握し、共生細菌群集が宿主氷河生物内で担っている代謝機能を理解する。また、生息氷河表面の細菌群集に関しても同様の解析を行い、比較することで、氷河無脊椎動物と細菌の共生系が氷河生態系内においてどのような役割を果たしているのかを明らかにする。研究には、コオリミミズおよび氷河カワゲラを使用する予定である。氷河微生物の氷河融解に及ぼす影響を評価する質量収支モデルを開発するために、既に開発済みの質量収支モデルをもちいて、ブータンヒマラヤのガンジュラ氷河の縮小傾向に影響している諸条件(気候条件、雪氷生物によるアルベド低下など)について、感度数値実験などを行い定量評価する。最後に、本研究の4年間の成果を3月に開催される国際雪氷学会「雪氷圏と生物圏の国際シンポジウム」において発表する。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 8件、 査読あり 17件、 謝辞記載あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件)
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