研究課題/領域番号 |
26241033
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
本田 智則 独立行政法人産業技術総合研究所, 安全科学研究部門, 主任研究員 (00425745)
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研究分担者 |
田原 聖隆 独立行政法人産業技術総合研究所, 安全科学研究部門, 研究グループ長 (10344160)
竹内 憲司 神戸大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (40299962)
稲葉 敦 工学院大学, 工学部, 教授 (90356494)
西野 成昭 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90401299)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電力自由化 / 制度設計 / 市場制度 / 省エネ / 再生可能エネルギー / 蓄電池 |
研究実績の概要 |
本研究は、分散型電源及び既存電源を協調させつつ、長期安定的に稼働可能な電力システムの構築を目指し、市場の効率性に着目し、環境性・経済性を両立する新たな電力取引市場の制度設計を行うための基礎的知見を得ることを最終的な目的としている。 電力の市場取引が株式市場取引と異なる点として、その取引において、同時同量制約、連系線制約といった様々な物理的制約が存在すること、また、電力が社会経済において重要な基盤であることから、1つの最も低価格となる電源のみを選択することは社会経済の安定生を担保する上で避けるべき選択であること、さらに、温室効果ガス低減を果たすという外部不経済の内部化を考慮に入れたものであること、などが挙げられる。初年度はこれらの問題を踏まえて、電力取引市場制度設計を行うため、電力取引を行う上での課題抽出、及び電力の市場取引を実現するための基礎的知見を得るためのデータの蓄積、理論的裏付けとなる諸外国の制度に関する取りまとめ、及び被験者実験を実施した 本研究では、一般住戸に設置された太陽光発電装置や蓄電池、家庭用燃料電池コジェネレーションシステム等を連携することで、市場で取引しやすい形に平準化し、これら小型分散電源を束ねて取引する手法を検討している。 現状の大きな課題として、時間毎、住宅毎といったミクロな電力の消費実態データは公開された情報としては存在しないことが挙げられる。そこで、独自に家庭に取り付けられたHEMS(Home Energy Management System)のデータを収集し、分散電源が設置された住宅の電力消費実態データの収集を行った。さらに、電力市場取引における連系線制約の考慮、外部不経済性を考慮に入れた財の市場取引、諸外国の再生可能エネルギー関連技術動向の把握といった、今後の研究の基礎となる研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、3つのサブテーマに分けて研究を遂行している。 サブテーマ1の理論研究では当初計画で示した通り、ポリシーミックスの調査の一つとして、OECD諸国を対象としたパネルデータに基づき、各国の再生可能エネルギー技術及び法制度の現状を調査し取りまとめた。同様に、サブテーマ2では、産業技術総合研究所が開発するLCAインベントリデータベースを用いて、分散電源を構成する太陽光発電装置、蓄電池のLCAを実施した。サブテーマ3の社会実装・市場制度設計研究グループでは、稼働電力取引市場をマイクロソフト社が提供するクラウドサービス上に、分散型電源を設置した住戸の電力消費実態データを展開した。また、電力取引において大きな課題となることが予想される連系線制約を考慮にいれた実験経済学の知見に基づく被験者実験を実施した。同様に、被験者実験として電力市場取引が環境負荷の低減を実現するものとするために、外部不経済性を考慮に入れた株式を例として、外部不経済性を考慮に入れた仮想市場取引実験を行った。 当初の計画では仮想市場において電力取引を担うエージェントの基本設計までを初年度に行う予定であったが、被験者実験、及び電力の消費実態データの解析結果から、分散型電源を設置した住戸における電力消費実態は通常の理論に基づかない傾向を示すことが明らかとなったため、エージェントの基本設計については次年度以降に行うこととし、次年度以降に実施を予定していた、被験者実験、及び電力消費実態データの解析を優先して行うこととしたが、全体としては概ね順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
被験者実験のうち連系線制約といった物理的な制約下における電力取引においては当初予想した仮説を裏付ける形での結果を得た。同様に、外部不経済を考慮に入れた取引実験では、市場において単純な電力取引を行った場合には、電力価格のみによって取引が行われる結果、1つの電源のみが淘汰される結果となった。実際の電力取引市場においては外部不経済を内部化させる形で再生可能エネルギーのように温室効果ガス低減に資する電源が淘汰されない制度設計が不可欠である。法制度に基づく強力な制約は市場を非効率化させることが懸念されることから、市場の自由な選択によって結果的に再生可能エネルギーが選択される制度が求められる。これを実現するための方法として、分散電源を設置した複数の住戸を1つの仮想分散電源と見なすことで、発電及び消費の平準化を行い、電力価格を安定させつつ、再生可能エネルギーが不得手とする電力の安定供給を実現する手法を検討する。 次年度以降については、被験者実験に基づく多様な制度下における電力取引実験と実住戸から得られた電力消費実態データのさらなる収集と分析を通じて、これを実現する手法を検討する。
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