研究課題
1.末梢受容 [口腔](1)塩味受容機構の解析:hENaCを一過的に発現させたHEK293T細胞を用いた膜電位測定およびhENaC発現卵母細胞を利用した二電極膜電位固定法の2つの系により塩味受容活性を測定した。この系を用いて、東京大学創薬イノベーションセンターのコアライブラリー3367化合物をスクリーニングし最終的に10個のhENaC活性化剤を見出した。(2)甘味受容体の構造解析:mGluR1 TMDの結晶化条件を参考にしてT1R3 TMDのコンストラクトを作製し、昆虫細胞sf9を用いて大量生産した後可溶化、精製を実施した。[消化管](1)Brush cell の機能解析:野生型とSkn-1(-/-)(S-KO)マウス間で糖代謝について比較した結果、OGTTにおいて血糖値の経時的変化には両群間で差がなかったが、グルコース投与15分後における血漿インスリン濃度はS-KOマウスにおいて有意に低下した。インスリン分泌促進ホルモンGIPの分泌量、膵臓インスリン分泌能、インスリン感受性は両群間で差がないことから、brush cellがグルコースセンサーとして働き、GIP非依存的にインスリン分泌を促進していることが示唆された。2.中枢認知 (1)基本味刺激による脳活性化:亜鉛欠乏8日目のラットでは塩味物質であるNaClに対する嗜好性だけが大きく変化した。その嗜好性は忌避行動を示す高濃度域、嗜好行動を示す低濃度域ともに増大し、亜鉛欠乏によってNaClに対する摂取欲求が高まった。3.末梢受容と中枢認知の連動性 (1)味物質とエネルギー代謝の連動性:WTマウスにサッカリン溶液を飲水または胃内投与した。口腔から飲水したマウス肝臓(6時間後)では、脂肪酸β酸化関連遺伝子の発現上昇などの脂質代謝に顕著な変化が生じた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、食品中に含まれる味物質の末梢(口腔味蕾、消化管)受容と中枢認知、さらには末梢受容と中枢認知の連動性を分子・細胞・神経レベルで解析することを目指している。1.末梢受容に関して、以下の3研究を実施した。(1)塩味受容機構の解析:ENaC活性化系を構築し、スクリーニングに用いて実際に10種の化合物の探索に成功した。(2)甘味受容体の構造解析:ヒト甘味及び旨味受容体であるT1R3を生産するために発現コンストラクトを作製し、昆虫細胞に導入した。培養条件を検討し、品質の良いT1R3タンパク質を1~2mg得ることができた。結晶構造解析の成否は「品質の良い受容体タンパク質を数mg取得する」ことであり、当初計画を上回る成果と考える。(3)brush cellの機能解析:brush cellが消失したS-KOマウスはOGTT解析からインスリン分泌が低下することを明らかにした。brush cellはエネルギー代謝制御に関与する可能性が示唆され、S-KOマウスは「腸-脳連関」の良いモデルであることを実証した。2.中枢認知に関しては、離乳食後の咀嚼の有無が大脳味覚野・運動野の活性化に反映するという興味深い結果を得た。3.末梢受容と中枢認知の連動性については以下の2課題を実施した。(1)味覚と嗜好性の連動性:亜鉛欠乏動物は、高・低濃度のNaClの嗜好性が有意に高まっていることを明らかにした。本成果は平成27年度研究の結果を含むものである。(2)味物質とエネルギー代謝の連動性:口腔の味受容により大脳味覚野が活性化され、その結果、末梢(肝臓)のエネルギー代謝が変化することを示した。平成26年度研究は、期待される成果を得ており、当初の計画以上に進展しているといえる。次年度以降の研究をさらに発展させたいと考える。
1. 末梢受容【口腔】(1)塩味受容機構の解析:高濃度の食塩受容に関わる新規チャネルのスクリーニングを行うために味蕾に発現する遺伝子解析(次世代シークエンサーを使用)を行う。候補分子についてはin situ ハイブリダイゼーションによる組織染色を実施し分子種を絞り込む。さらに、その分子のKOマウスを作成する。(2)甘味受容体の構造解析:生産・精製した甘味受容体(hT1R2、hT1R3) はリガンドとの結合力を等温滴定カロリメトリーやビアコアにより測定する。【消化管】(1)brush cell の機能解析:S-KOおよび野生型マウスにおける摂食量(普通食及び高脂肪食)と消費エネルギー量の関連を解析する。さらに、カテコールアミン量測定や肝臓、脂肪組織、筋肉、視床下部などの遺伝子発現解析を行い、総合的エネルギー代謝を解析する。brush cellに発現するチャネル、トランスポーター、GPCRの探索を次世代シークエンサーを用いて解析する。2. 中枢認知(1)基本味刺激による脳活性化:マーカー分子を用いて、複合基本味刺激による脳活性化部位を特定する。(2)咀嚼による脳内活性化:マウスに硬さが異なる餌(粉あるいは固型)を投与し、咀嚼による脳活性化状態を遺伝子発現から解析する。3. 末梢受容と中枢認知の連動性:味物質とエネルギー代謝の連動性:サッカリン以外のノンカロリー甘味料であるアセサルファムKやシュクラロースの口腔摂取(甘味刺激)の場合にも肝臓の脂肪代謝系に変化が生じることを解析し「腸脳軸」の検証を行う。
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