研究課題
1.末梢受容[口腔](1) 塩味受容機構の解析:hENaC活性化剤として見い出した10個の化合物について活性・構造相関解析を行い、クロロフェニル基、フェニル基、カルボキシフェニル基へのクロライド付加、カルボキシ基の移動、ピペリジンの形成などが活性に関わることを推定した。(2)甘味受容体の構造解析:sf9により生産した甘味受容体のモノクローナル抗体の作製を試みている。[消化管]brush cellの機能解析:エネルギー代謝を間接カロリメトリーにより解析したところ、絶食状態では、WTマウスに比べKOマウスではVO2は明期および22時間合計において高値を示し、VCO2は明期でのみ高値、22時間合計では上昇傾向を示した。RER(エネルギー消費量)はKOマウスでは、WTマウスに比べて有意に低下した。またKOマウスのエネルギー消費量はWTマウスに比べて有意に上昇した。KOマウスにおいてALP, T-KBの有意な高値、NEFA上昇傾向、TP低下傾向が示された。両マウスにおいて肝臓遺伝子発現プロファイルが大きく変化していた。WTマウス群に比べてKOマウス群で発現上昇した1020プローブセットと、発現低下した1304プローブセットにはエネルギー代謝に関するGO termが多く抽出された。前者には解糖やコレステロール生合成、後者には糖代謝や脂質代謝、アミノ酸代謝に関連する遺伝子群が含まれた。また、糖新生に関連する不可逆遺伝子は全て発現低下した。肥満への関与が知られている腸内細菌叢のプロファイリングは、両マウス群で異なっていた。2.中枢認知:固型餌あるいは粉餌を4ヶ月間摂取させたラット視床における遺伝子発現プロファイルは両者間で大きく異なった。海馬、視床下部、小脳の遺伝子発現は両者間で大きな変化は観察されなかった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、食品中に含まれる味物質の末梢(口腔味蕾、消化管)受容と中枢認知、さらには両者の連動性を分子・細胞・神経レベルで解析し、以下の知見を得た。(1)hENaC活性化剤の構造・活性相関:hENaC活性化の候補化合物①~⑩にはインドール環が共通構造である。また、フェニル基、スルホンアミド、カルボキシフェニル基などの構造も共通である。これらはhENaCを活性化する部分構造であると推定した。(2)brush cellの機能解析:エネルギー消費量の解析からエネルギー産生が亢進し、RERの低下からKOマウスでは運動非依存的に、脂質の利用が亢進することで体脂肪の蓄積が抑制されている可能性が示された。また、エネルギー消費量や呼吸交換比など、遺伝子型による変化が観察された各項目は22時間合計でも差が見られたが、暗期に比べ明期がより明確な差が見られた。KOマウスでは摂食と絶食のそれぞれの解析においてコレステロール(T-CHO, F-CHO)や、WATからの脂肪分解を示すNEFAにも変化が見られていたことから脂質代謝の亢進が強く推定された。またS-KOマウスでは、解糖は大きな変化がなく、糖新生は抑制されていた。本研究からSkn-1a KO (SKO) マウスは、脂質代謝が有意に亢進し続ける状態にあることから、エネルギー恒常性が破綻したモデルと位置づけることができた。摂食によるエネルギー代謝の変化は栄養素の吸収による影響といった「従来の栄養学」とは異なり、摂食刺激が口腔(味細胞)や消化管(brush cell)を介するシグナルによっても制御される新規な代謝制御を提唱する研究成果を得つつある。
1.末梢受容[口腔](1)塩味受容機構の解析:hENaC活性化する化合物10種について相同な構造を有する天然物化合物を探索する。ENaC以外の塩味受容チャネル分子をWT, KOマウスの味蕾の遺伝子解析からスクリーニングしており、候補分子の電気的性質解析(培養細胞を用いたwhole-cell patch)を行う。[消化管]brush cellの機能解析:S-KOおよび野生型マウスにおける摂食量(高脂肪食)と消費エネルギー量の関連を解析する。さらに、カテコールアミン量測定や肝臓、脂肪組織、筋肉、視床下部などの遺伝子発現解析を行い、総合的エネルギー代謝を解析する。brush cellに発現するチャネル、トランスポーター、GPCRの探索を次世代シークエンサーを用いて解析する。2.中枢認知(1)咀嚼による脳内活性化:固型あるいは粉の餌を長期(4ヶ月)および短期(10日間)摂取したラットの脳機能を活動試験、視床および血液の遺伝子発現により解析する。3.末梢受容と中枢認知の連動性:味物質とエネルギー代謝の連動性;サッカリン以外のノンカロリー甘味料であるアセサルファムKやシュクラロースの口腔摂取(甘味刺激)の場合にも肝臓の脂質代謝系に変化が生じることを解析し「腸脳軸」の検証を行う。
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