研究課題/領域番号 |
26242016
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
南 武志 近畿大学, 理工学部, 教授 (00295784)
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研究分担者 |
武内 章記 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (10469744)
高橋 和也 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 専任研究員 (70221356)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 朱 / 硫黄同位体 / 鉛同位体 / 水銀同位体 / 墳墓 / 弥生時代 / 古墳時代 |
研究実績の概要 |
古墳時代黎明期を主にして全国の墳墓から朱を収集し、同位体分析を行った。28年度に主に収集した地域は、北部九州、山陰、近畿、中部、東北である。その結果、宮城県の古墳時代前期の集落から採取した朱は丹生鉱山産の可能性が高いことがわかり、古代大和政権の勢力拡大に伴い、畿内で採取された朱も東北までその使用の広がりが図られたと思われる。また、北部九州の弥生時代中期後葉の1つの遺跡から男性と女性を葬った甕棺2基が対をなして発掘され、どちらにも朱が施されていた。この朱の同位体分析を行ったところ、産地が異なる朱を用いたと推察される結果が得られた。加えて、島根県出雲地方の弥生時代から古墳時代にかけた墳墓に使用された朱の産地を同位体分析で調べたところ、中国産朱の使用が日本産朱の使用へと産地の変遷が明らかになりつつある。鉛同位体分析では昨年まで分離が困難だった三重県丹生鉱山産辰砂鉱石と奈良県大和水銀鉱山産辰砂鉱石の産地区別が可能となった。従来、1つの墳墓からわずかな量の朱を1カ所から採取可能な場合が多く、そこから同位体分析で産地を推定していたが、硫黄同位体分析と鉛同位体分析の2種類の同位体分析で産地推定が可能となり、墳墓から出土した朱の産地推定の信頼性を高めることが出来たと考えている。水銀同位体分析は、分析方法の簡略化は難しく、測定に時間がかかるという短所がある。水銀同位体分析の簡略化と微量化が図れればさらに産地推定の信頼性の向上が期待される。このように、弥生時代から古墳時代にかけて墳墓に用いられる朱の同位体分析による産地推定法は信頼性の向上に努めており、さらに時代に伴い使用される産地が異なるという興味ある結果が得られつつある。古墳時代黎明期における朱の産地を同位体分析で明らかにすることは、威信物外交手段としての朱よりその当時の権力推移を知る上で大きく貢献できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近畿地方、山陰地方、中部地方の墳墓出土朱は順調に収集できており、予定どおりであると考えている。九州の朱も収集する予定であったが、熊本地震の影響で29年度に回すこととした。分析に関しては、硫黄同位体分析と鉛同位体分析は順調に進んでいる。水銀同位体分析は測定に時間がかかる短所の見直しがいまだ不十分であり、解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
九州における弥生時代から古墳時代の墳墓出土朱を重点的に収集分析し、中国と古代大和政権の影響がどのように表れているかを明らかにする。また、奈良県の墳墓の朱に関して、1つの墳墓から複数個所より採取して中国産朱の可能性を再検討する。 辰砂鉱山の中で、和歌山県和佐鉱山が非常に古くから開発されていた可能性が出てきた。しかも和佐鉱山鉱石の硫黄同位体比は三重県丹生鉱山鉱石の値と類似しており、両鉱山鉱石の違いを鉛同位体および水銀同位体分析で調べ、硫黄同位体分析だけで行っていた丹生鉱山産と思われる墳墓出土朱について、和佐鉱山産の可能性を検討する。 これらをもとにして、古墳時代黎明期の朱の流通を明らかにし、学会や雑誌に報告していく。
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