研究課題/領域番号 |
26242020
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
松井 章 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (20157225)
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研究分担者 |
石黒 直隆 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (00109521)
中村 俊夫 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 教授 (10135387)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
山田 仁史 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90422071)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 家畜 / 考古科学 / 動物考古学 / 古環境 / 古代DNA / 安定同位体 / 民族考古学 / クサガメ |
研究実績の概要 |
研究代表者:松井章は、2014年5月に中国浙江省田螺山遺跡を訪問し、一部の動物遺存体のを持ち帰り、研究分担者や連携研究者らの協力も得て種の同定に努めた。その成果は、10月に浙江省文物考古研究所において内部研究会を実施し、中国側にも成果の共有をはかり、現在、中国語と日本語とで松井の本科研の成果報告として編集中である。 1)出土した魚類の多くは、淡水魚カムルチーのもので、淡水魚では他にコイ、ナマズ、ギギ科が加わり、汽水・海水魚ではボラ科、ニベ科などが含まれる。 2)出土した動物遺存体の中で最多数を占める淡水産のカメ類は、ほぼすべてがクサガメのもので、2~3歳の年齢が多いことが連携研究者の平山廉早大教授の分析により明らかにできた。淡水産のカメは、どの出土地点をとっても膨大な量の骨、甲羅が出土しており、田螺山遺跡で住民によって摂取された動物性タンパク質のうち、3/4以上を占めるのではないかと思われ、これまで重要性が等閑視されてきたと言えよう。 3)2014年10月、浙江省文物考古研究所において、共同研究の到達点として、菊地大樹による総説、米田穣による安定同位体から見た家畜・野性種の判別、江田真毅による鳥類の同定、出土主要種の検討、茂原信生による人骨の特徴、中村俊夫によるAMS年代測定をもちいた高精度年代測定による、各文化層の絶対年代の決定などの成果が得られ、現在、中国語と日本語とで成果報告書の編集中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国側の全面的協力を得ることができ、特に田螺山遺跡での成果が相次いでいる。この遺跡を足がかりに、これまで動物考古学的な研究が欠けていた、中国新石器時代初期における家畜導入の動物考古学的な証拠を求め、古環境変遷との関係を明らかにしたいものである。 2014年5月に実施した標本採集の成果について、10月に成果概要として発表できたことは、浙江省文物考古研究所でも高い評価を受けた。2015年6月にも追加資料の再検討と、日本に持ち帰る資料の選別を実施する予定である。日本国内でも中世、なかでも戦国時代のブタの類例を福岡城、黒崎城で検出し、形質を明らかにしたい。牛馬骨も畿内の遺跡から類例を増加させ、従来からの主張通り、5世紀に馬が、6世紀に牛が渡来したことは、ますます確固とした事実となりつつある。以上のように中国南部での田螺山遺跡を中心とした新石器時代前期の初期農耕・家畜文化と、その日本への移入の年代に関する研究は順調に推移していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで通り、中国浙江省での調査を中心として、ベトナム、タイへも調査の範囲を拡げ、中国南部から東アジアだけでなく、東南アジアへの拡散の道も明らかにしたい。 かって報告書の作成に加わった、韓国金海貝塚の動物遺存体の再検討を実施し、ニワトリ、ブタの有無を再度、検証する。ネコとニワトリを同定した長崎県壱岐市カラカミ遺跡の再検討を行い、弥生時代中期から後期にかけての層から出土している年代が、弥生時代前期に遡らないか検討したい。 長崎県壱岐カラカミ遺跡から出土したネコの系譜を中国南部にも求めたい。田螺山遺跡からネコの出土はまだ報告されていないが、「水稲稲作農耕の開始=ネズミによる食害を防ぐためネコを導入」という図式が当てはまるなら、中国南部こそ東アジアでネコの家畜化、もしくは伝播が行われた場所であるはずなので、膨大な田螺山遺跡から出土した動物遺存体のなかから、ネコが出土していないか検討したい。
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