研究課題/領域番号 |
26242021
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松井 敏也 筑波大学, 芸術系, 准教授 (60306074)
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研究分担者 |
栗本 康司 秋田県立大学, 木材高度加工研究所, 教授 (60279510)
和田 浩 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 室長 (60332136)
天野 真志 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (60583317)
長野 克則 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80208032)
片岡 太郎 弘前大学, 人文学部, 特任教授 (80610188)
奥山 誠義 奈良県立橿原考古学研究所, 企画部, 主任研究員 (90421916)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 保存科学 / 被災資料 / 揮発物質 / 環境安定化 / 改質システム |
研究実績の概要 |
真空凍結乾燥および自然乾燥を行った水損被災紙資料について、イオンクロマトグラフ分析装置を導入し、資料の放散ガス(酸、アルカリ、TOC)を分析し、ケミカル除去シートを用いた際のガス除去効果を確認した。津波被災紙資料から放散するガスについてGC/MSおよびにおい嗅ぎ測定を実施した。この結果GC/MSで同定した33成分の内、臭気として12成分を検出した。特に、アルデヒド類やジメチルスルフィドの臭気強度が強いことが明らかとなった。 被災紙資料から発生する様々なガスは収蔵室内に滞留するため、脱臭や換気による空気質改善が必要となる。全熱交換換気装置は、室内空気と外気新鮮空気を置換するとともに、熱交換による調温・調湿が可能なことから有効な方法だが、室内で発生した様々なガス成分が、全熱交換素子を通過する際に、外気空気側へ移行する可能性が指摘されている。そこで、高効率な全熱交換素子を用い、CO2やアンモニア、トルエンガス移行率について、夏、冬を想定した外気温湿度環境での試験を行った。この結果から、アンモニアなどの水溶性のガス成分は、全熱交換素子を溶解拡散移動する水分に影響されることが示唆された。 被災時における文化財の一時保管を想定し、津波被災を受けた博物館に調湿剤入りの各種段ボール製簡易保管箱を設置し、温度湿度環境の安定効果の有効性を検証した。収蔵ケース内の温湿度変化を継続的に評価したところ、最外層に防湿層を設けることにより、日較差など気温に大きな変化があった場合にも、ケース内の湿度はほぼ一定値に保たれることを確認した。 被災資料収蔵施設の現状について調査を実施し、直面する課題等について協議を実施した。海外における博物館の防災、減災に関する最新の情報と研究動向を得た。今後の災害に対する被災文化財の一時保管・受け入れについて、市町村文化財担当者へ聞き取りを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者ならびに分担者において、調査研究が滞りなく進んでいる。特に、被災資料の臭気成分の分析が行われ、その特有臭気の同定がなされた。また、同じ水害においても津波被災と河川の洪水による被災資料の放散ガス分析を実施し、その特徴が明らかにされた。 一時保管、および収蔵施設における温湿度やガスの安定性に関するデータも取得され、調査条件の確立ができた。 また、改質試験においてもケミカルフィルターなどによる効果を確認するなど成果を上げている。
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今後の研究の推進方策 |
各研究分野の一層の進展が望めるよう、これまでの調査データの見直しとその改善を行う。特に被災した施設の経年変化についても実施し、その空気質環境の変化をモニタリングする。これまでの被災資料、被災施設から得られたデータをもとに実践的な課題を解決するための試験をモデル機関を定めて実施する。 また、被災施設、被災資料で顕著に検出された物質の除去、改質だけではなく、文化財材質に与える影響調査を行う予定である。
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