研究課題/領域番号 |
26242028
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
木島 正明 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (00186222)
|
研究分担者 |
山下 英明 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (30200687)
内山 朋規 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (50772125)
室町 幸雄 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (70514719)
鈴木 輝好 北海道大学, 経済学研究科, 教授 (90360891)
芝田 隆志 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (70372597)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ファイナンス / 金融リスク管理 / 確率モデル |
研究実績の概要 |
木島は,今や金融市場を記述するうえで不可欠なボラティリティの変動とその価格付けへの影響について検討し,VWAP(volume weighted average price)に依存するキャッシュフローを持つオプションの一般的な近似評価手法を提案した.また,ボラティリティがフラクショナルブラウン運動に従う場合のオプション価格の近似手法を提案し,ボラティリティスマイルへの影響を評価した. 内山は,本邦国債の金利の期間構造を対象に,その歪みの変動リスクを表す新たなファクターを定義して実証分析を行い,このファクターがリスク資産(クレジットや株式)との相関が負であるにもかかわらず,高いリスクプレミアムを持つことを明らかにした.さらに,既存の債券ファンドのパフォーマンス分析を行い,このファクターへの投資により債券運用を改善しうることも示した. 鈴木は,金融機関が債務を相互に保有しあうネットワーク問題において,これまで未解決であったデフォルトプットオプションの取り扱いを可能にするモデルを提案した.これにより,完全連結ネットワークの頑健性に関して既存研究とは異なる結果を導いた.すなわち,デフォルトプットオプションによる完全連結ネットワークではシステミックリスクがより顕在化しやすいことを発見した. 芝田は,投資資金の借入額が担保価値に(内生的に)制約されると仮定した上で,企業の投資行動と資金調達との間の相互作用を明らかにした. 室町は,資産に内在するリスクの金利依存性と観測データから得られるリスクの期間構造を考慮した価格付けモデルを改良し,より現実的な理論価格を得た.また,本邦のRMBSのプリペイメントの観測データをもとに,期間構造が特徴的な形状を持つことを示した. また室町は,2016年9月に導入されたデリバティブ取引の初期証拠金払いが価格に及ぼす影響を効率的に評価する手法について検討した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は「A.資産負債の主要クラスのリスクの特性分析とリスク評価のための動的確率モデルの提案」と「B.将来の経済環境の変化を柔軟に表現できるポートフォリオのリスク評価モデルの開発」を二本柱として進めている. Aでは,国債市場の実証分析により,高いリスクプレミアムを持つリスクファクターを抽出し,それを用いた債券運用のパフォーマンス改善が示唆されることを示した.また,より現実的な設定下で,企業の投資行動と資金調達の相互作用に関する新たな知見が得られた.さらに,金融機関のネットワークにおけるシステミックリスクの顕在化についても新たな知見が得られた.金利依存性のあるリスクを内包する金融商品の価格付けモデルも改良されてより現実的になり,また,最新の制度変更の動きに対応した研究(デリバティブ取引の初期証拠金に関する研究)も開始した. Bにおいても多くの成果が得られた.具体的には,確率ボラティリティモデルにおけるオプション価格の近似手法の開発と,経済環境の突然の変化をマルコフ連鎖で表現したモデルの開発に関する一連の成果である. 上述の研究成果の多くは学術論文として国内外の専門誌に掲載されたが,これは当初想定していた以上の成果である.一方,金融機関の内部データの分析に関しては,データ入手経路が確立できていないため,理論先行の状態であることは否めない.その点をマイナスして上記の評価とした.
|
今後の研究の推進方策 |
本研究計画は「A.資産負債の主要クラスのリスクの特性分析とリスク評価のための動的確率モデルの提案」と「B.将来の経済環境の変化を柔軟に表現できるポートフォリオのリスク評価モデルの開発」を二本柱として進めているが,研究計画の最終年度に向けて,今年度はそれぞれの研究をさらに深化させることが適切であると考えている. 例えば国債市場の分析に関しては,既にデュレーション,クレジット,キャリーといったファクターのリスクプレミアムについて実証的に明らかにし,実務への応用についても分析したが,今後はこれらのファクターでも捕らえきれない成分にも着目し,これまでの成果を発展させるとともに,金融政策のショックやマクロ経済のリスクとどのような関係を持つのかに関する分析も行おうと考えている. また,デリバティブ取引の初期証拠金の研究に関しても,現在は基礎的段階なので単純なデリバティブしか扱っていないが,デリバティブ・ポートフォリオへの適用や,より複雑なマルチリスクのモデルへの拡張なども今後取り組むべきテーマと考えている. やや遅れている金融機関の内部データの分析に関しては,今後もデータ入手の努力を続け,入手でき次第,それぞれのグループで分析を進める予定である.
|