研究課題/領域番号 |
26242040
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 宏知 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (90361518)
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研究分担者 |
川合 謙介 自治医科大学, 医学部, 教授 (70260924)
國井 尚人 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80713940)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 聴覚 / 迷走神経 / 大脳皮質 / 視床 / てんかん発作 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,迷走神経刺激療法 (VNS) による脳活動の調整機能を明らかにし,さらに新たな利用方法を探索することである.具体的には, (i) 大脳皮質内の神経活動や皮質・視床の相互作用に対して,VNSが及ぼす影響を調べ,てんかん発作の発生と抑制のメカニズムを明らかにすること,(ii) VNSによる神経活動の調整が,知覚・認知と記憶・学習機能に及ぼす影響を調べて,VNSと音学習を併用した耳鳴治療 (TRT) の可能性を探索することである.これまでに,VNSが神経活動に及ぼす影響は,大脳皮質の層ごとに異なることを明らかにした.入力層の4層では反応閾値が広がり,中間層の2/3層は活性化し,出力層の5/6層は不活性化する.本年度は,まず,移動エントロピーにより,各層間の情報の流れを定量化し,それらが解剖学的な特徴と合致することを確かめた.また,4 mm角に100計測点を有する電極を用いて,層ごとに神経活動パターンを調べた.活動パターンから音情報をデコーディングしたところ,2/3層のデコーディングは,4層や5層よりも難しかった.これらの集団的な情報表現に対するVNSの影響は現在調査中である.VNSが聴知覚に与える影響を調べるために,ラットの聴力検査を実現できる実験系を構築した.この系ではラットの頭部を固定した状態でレバーを引かせる.音に対してレバーを引くようにラットを訓練することで,ラットの聴知覚を報告させられる.強大音に暴露してラットを難聴にしたところ,予想通り,レバー引き行動の頻度の低下を認めた.また,耳鳴様行動を示す個体も認められた.これらの実験により,VNSが聴知覚に与える影響を調べる目途がついた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
VNSの影響を調べるための実験が着実に進められている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立してきた実験系を利用して,VNSが神経活動に与える影響を定量化したうえで,VNSの効果の多様性を説明する.たとえば,2/3層の活性化は,知覚情報処理のフィードフォワード経路に影響するので,記憶・認知パフォーマンスの向上を促すと予測できる.逆に,5/6層の不活性化は,高次領野から低次領野へのフィードバック経路を抑えるので,高次領野からのてんかん発作の伝播を抑制できると考えられる.また,これらの影響を行動実験でも考察する.臨床研究では,これまでに,手術前後でVNSを計測した症例が蓄積されてきたので,これらの症例を整理し,VNSが脳波に与える影響を調べる.これらのにより,脳波と症状,さらには動物実験で得た脳内の同期とを関連付けることを目指す.
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