研究課題/領域番号 |
26242043
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
安藤 譲二 獨協医科大学, 医学部, 教授 (20159528)
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研究分担者 |
山本 希美子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00323618)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 血流 / 血管内皮細胞 / shear stress / stretch / 形質膜 / 膜脂質相 / 膜流動性 / 細胞増殖因子受容体 |
研究実績の概要 |
前年度の研究により血管内皮細胞・形質膜の物理的性質(物性)が流れ刺激によるshear stressと、伸展刺激と低浸透圧によるstretchで異なる変化を示すことが判明した。即ち、shear stressは形質膜の脂質相(lipid order)を低下させ、膜流動性を増加させるが、stretchはlipid orderを増加させ、膜流動性を低下させた。そこで、本年度は形質膜の物性の変化がshear stressとstretchのメカノトランスダクションにどの様な役割を果たしているかについて検討した。以前、我々はマウスのES細胞に由来する血管前駆細胞にshear stressを作用させると内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)がリガンド非依存性にリン酸化することで内皮細胞への分化が誘導され、一方、stretchは血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)をリガンド非依存性にリン酸化することで平滑筋細胞への分化誘導が起こることを見出した。そこで、本年度はヒト肺動脈内皮細胞において形質膜の物性変化がshear stressによるVEGFRのリン酸化とstretchによるPDGFRのリン酸化に及ぼす影響についてウエスタンブロットによる解析を行った。細胞にコレステロールを添加してshear stressで生じる膜のlipid orderの低下を起こらなくすると、shear stressによるVEGFRのリン酸化が著明に抑制された。一方、細胞をMβCDで処理し細胞膜のコレステロールを減少させてstretchによるlipid orderの上昇を起こらなくすると、stretchによるPDGFRのリン酸化が明らかな抑制を受けた。このことはメカニカルストレスによる形質膜の物性変化が細胞増殖因子受容体のリン酸化を介したメカノトランスダクションに重要な役割を果たすことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は内皮細胞のメカノトランスダクション機構に関して、shear stressとstretchが惹起する形質膜の物理的性質の変化の面から解析を加えた。培養血管内皮細胞にshear stressが作用すると即座に形質膜のlipid orderがshear stressの強さ依存性に減少し、膜流動性が増加した。一方、細胞の伸展あるいは低浸透圧刺激で形質膜にstretchが作用するとlipid orderが増加し、膜流動性が減少した。このことは形質膜がshear stressとstretchを異なる刺激として区別してセンシングできることを示している。本年度は、shear stressとstretchで惹起される形質膜の物性変化が、その下流で活性化するシグナリングと関連しているかについて、細胞増殖因子受容体のリン酸化の面から検討した。その結果、shear stressによる膜の物性変化がVEGF受容体のリン酸化を、stretchによる膜の物性変化がPDGF受容体のリン酸化を介したシグナリングに繋がっていることが判明した。従って、初年度と本年度は計画通りに実験を遂行し、手技的な問題を解決しながら、目的とするデータをおおむね取得することができている。これらの実験は現在も進行中であるが、これまでに得た有意義なデータを基に学会報告や論文発表を行っており、研究の達成度としては順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度と本年度の研究により、血管内皮細胞の形質膜の物性がshear stressとstretchで異なる変化を示すこと、それが下流で細胞増殖因子受容体を介したシグナリングに連動していることが示された。そこで、最終年度は形質膜の物性を規定する主要な膜成分であるコレステロールの動態の面から内皮細胞のメカノトランスダクションの仕組みを探る研究を行う。具体的にはshear stressとstretchが形質膜のコレステロールの分布や量にどの様な影響を及ぼすかについて、コレステロール結合プローブD4を用いた蛍光イメージング及びフローサイトメトリで解析する。D4はClostridium perfringens が産生する毒素蛋白perfringolysin Oのdomain4で高いコレステロール親和性を示すが細胞毒性はないという特徴がある。また、内皮細胞に発現しコレステロールを集める蛋白であるストマチンがshear stressやstretch下のコレステロールの動態や内因性ATP放出反応に果たす役割についても検討を加える予定である。膜コレステロールは膜の物性変化を介して、あるいは特異的は相互作用を介して、膜に存在あるいは結合する様々な分子やカベオラのような膜のミクロドメインの構造や機能を修飾することが知られている。したがって、shear stressとstretchに対する膜コレステロールの応答が明らかになると、コレステロールという新しい視点からメカノトランスダクションの仕組みを理解できるようになると期待できる。
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