研究課題
本研究では、我々が先駆的に開発を進めてきたアデノウイルス(Ad)ベクター改変技術やマイクロRNA(miRNA)による遺伝子発現制御技術を駆使して、遺伝子治療やワクチン、癌の診断等に利用可能な革新的な組換えAdの開発とその応用を進めている。H26年度は以下の成果を得た。1.ゲノム編集技術として注目されているCRISPR/Cas9システムを搭載したAdベクターの開発を進めた結果、Cas9発現Adベクターはウイルス複製中のCas9発現のために、ベクターを得ることができないことが判明した。そこで、ウイルス複製中はCas9発現を抑制できるベクター系の作製を開始した。2.Adベクターのワクチン効果向上を目指し、Adベクター投与後の獲得免疫応答誘導メカニズムについて、自然免疫活性化の観点から種々の検討を行った。その結果、Adベクター投与後にType I IFNシグナル依存的に発現上昇するIL-6によって、ヘルパーT細胞亜集団のTh17が誘導され、粘膜面での抗原特異的な細胞傷害性T細胞の誘導を促進している可能性を明らかにした。3.新しい癌の診断法として注目されている末梢循環腫瘍細胞(CTC)を感度良く正確に検出できる新規Adとして、(ⅰ)E3欠損領域へのGFP発現カセットの挿入、(ⅱ)癌細胞特異的なhTERTプロモーター制御下にE1遺伝子を挿入することで癌細胞特異的なAd増殖能の付与、(ⅲ)ほとんど全てのヒト細胞で発現がみられるCD46を認識する35型Adのファイバータンパク質の付与、(ⅳ)血液細胞でのAd複製を抑制するために、血液細胞特異的miRNAであるmiR-142-3pの標的配列をE1およびGFP遺伝子の3’非翻訳領域に挿入した改良型Adを作製し、その特性を詳細に解析した。また、本系の更なる改良に向けて、miRNAとAd複製に関するメカニズム解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
1.Cas9発現Adベクターが得られないことは当初の予想通りであり、テトラサイクリンの遺伝子発現制御系を付与したAdベクターにCas9発現カセットを搭載させることにした。即ち、Adベクター複製中はCas9発現を抑制させ、ゲノム編集技術を行うときだけ、Cas9発現を誘導できるベクター系の開発を現在行っており、当初の計画通り研究は進んでいる。なお、本系ではテトラサイクリンの遺伝子発現制御系を単一のAdベクターに搭載しており(我々が以前に開発済み)、その汎用性は極めて高い。2.Adベクターの体内分布について検討し、大腿四頭筋への投与後初期では筋肉内や鼠径部リンパ節に多く分布していることを明らかにした。また、Adベクター投与8時間後の鼠径部リンパ節ではType I IFNやIL-6の発現が上昇していること、ならびにそれらの発現上昇がType I IFNシグナル依存的であることを明らかにした。さらに、IL-6によって誘導されるヘルパーT細胞であるTh17が、Type I IFN受容体欠損マウスの腸管粘膜において減少していることを明らかにした。以上のように、当初の計画どおり、Adベクターの体内動態、自然免疫活性化、ヘルパーT細胞の解析を行い、重要な知見を得ている。3.開発した新規CTC検出用Adは、従来の5型Adの受容体であるCAR陰性癌細胞を含むあらゆる癌細胞においてGFPを発現すること、かつ血液細胞では、miR-142-3pの標的配列の付与によりGFP発現が見られないこと、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)中にスパイクしたヒト癌細胞を特異的に検出できることを確認した。また、肺癌患者から採取したヒト末梢血中に混在する癌細胞の検出や、miRNAとAd複製に関するメカニズム解析にも着手した。さらに、Ad由来小分子RNA等とAd複製に関する解析を行い、当初の計画通り研究は進んでいる。
1.テトラサイクリンの遺伝子発現制御系を用いてCas9発現Adベクターを作製する。プラスミドベクターを用いた場合とのCRISPR/Cas9システムでのゲノム編集の効率について比較検討を行う。さらに、テトラサイクリンの遺伝子発現制御系では、人工転写因子(tTA等)が将来的な応用の際に免疫的に問題になる可能性がある。そこで、miRNA発現制御系を利用して、Adベクター増幅中だけCas9の発現を抑制できる新規Adベクターの開発も試みる。2.Th17には細胞傷害性T細胞の分化や増殖を促進する作用が知られていることから、Th17誘導メカニズムの解明が重要な鍵であると考えられる。ヘルパーT細胞の分化は、抗原提示細胞などから産生されるサイトカインの種類によって制御されていることから、Adベクターによって活性化される細胞のTh17誘導能について明らかにする。同時に、Type I IFN受容体欠損マウスについても検討することで、Type I IFNシグナルの重要性も明らかにしていく。3.肺癌、大腸癌患者から採取したヒト末梢血中に混在する癌細胞の検出が新規CTC検出用Adで可能か否かについて検討する。CTC検出率に加え、偽陽性の検出率について、我々が開発済みの従来型のCTC検出用Ad(ファイバー改変やmiRNA発現制御系を付与せず、hTERTプロモーター制御下でのE1遺伝子発現とGFP発現カセットのみを搭載した制限増殖型Ad)と比較しながら、検討する。なお、臨床検体の収集は研究協力者の藤原俊義教授(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学教授)や共同研究を行っているオンコリスバイオファーマ社との協力のもと行う。また、引き続いて、miRNAとAd複製に関するメカニズム解析を進める。
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BioMed Res. International
巻: - ページ: 158128
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Mol. Ther. Methods Clin. Dev.
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