研究課題/領域番号 |
26242048
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水口 裕之 大阪大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (50311387)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ウイルス / 遺伝子 / 癌 / 免疫学 / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が先駆的に開発を進めてきたアデノウイルス(Ad)ベクター改変技術やマイクロRNA(miRNA)による遺伝子発現制御技術を駆使して、遺伝子治療やワクチン、癌の診断等に利用可能な革新的な組換えAdの開発とその応用を進めている。H27年度は以下の成果を得た。 1.これまでに研究で、ゲノム編集のためのCas9発現Adベクターは、ウイルス複製中のCas9発現のために、ベクターを得ることができないことが判明した。そこで、テトラサイクリンの遺伝子発現制御系を付与して、ウイルス複製中はCas9発現を抑制できるベクター系を開発し、Cas9発現Adベクターの作製に成功した。 2.Adベクターのワクチン効果向上を目指し、Adベクター投与後の獲得免疫応答誘導メカニズムについて、自然免疫活性化の観点から種々の検討を行った。その結果、Adベクター投与によって、ヘルパーT細胞亜集団のTh17が誘導されている可能性を明らかにした。さらに、そのTh17誘導がType I IFNシグナル依存的である可能性も明らかにした。 3.開発した新規CTC検出用Adの有用性を癌患者の臨床検体を用いて検討を進めた。その結果、本研究で改良に成功した新規CTC検出用Adでは偽陽性の出現を劇的に抑制可能であることが示された。さらに本Adの応用に向けて、ウイルスタイターを増やすための検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.テトラサイクリンの遺伝子発現制御系(Tet-Offシステム)を用いることで、十分な力価のCas9発現Adベクターの作製に成功した。作製したCas9発現AdベクターとgRNA発現Adベクターを培養細胞に共作用させたところ、標的ゲノム配列の20~30%が切断されていた。またシークエンス解析により、標的ゲノム配列に変異が導入されていることを確認した。以上より、CRISPR/Cas9システム搭載Adベクターは、高効率なゲノム編集に向けて有用な基盤技術となりうることが示唆された。 2.AdベクターによるTh17誘導能に関して、種々の検討を行った。Th17分化に重要なIL-6やTh17の生存に重要なIL-23の発現について検討したところ、Adベクター投与後のそれらのmRNAの発現は、Type I IFNシグナル依存的であることを明らかにした。また、in vitroの検討から、Adベクターを感染させた樹状細胞は、ナイーブT細胞からTh17へと誘導する能力が高いことを明らかにした。以上のように、当初の計画どおりAdベクターのTh17誘導能について解析を行い、重要な知見を得ている。 3.非小細胞性肺癌患者より採取した血液細胞に、作製した新規CTC検出用Adを作用させ、GFP陽性細胞の出現を評価した。従来型CTC検出用Adを作用させた場合には、平均すると500を超えるGFP陽性細胞が検出されたが、それらのほとんどはCD45陽性の血液細胞であり、従来型Adを用いた場合には血液細胞におけるGFP発現を抑制できないことが示された。一方で新規CTC検出用Adを用いた場合には、1サンプルあたり2.7個のGFP陽性細胞が検出され、その約43%がCD45陰性であったことから、CTCを効率よく検出可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.最適なゲノム編集効率を得るために、Cas9発現AdベクターとgRNA発現Adベクターの作用比等を検討する。また、様々な標的遺伝子について、ベクター作用量やゲノム編集効率について検討し、(必要があれば)その最適化を図る。さらに、テトラサイクリンの遺伝子発現制御系では、人工転写因子(tTA等)が将来的な応用の際に免疫的に問題になる可能性がある。そこで、miRNA発現制御系を利用して、Adベクター増幅中だけCas9の発現を抑制できる新規Adベクターの開発も試みる。 2.Th17には細胞傷害性T細胞の分化や増殖を促進する作用が知られていることから、Th17誘導メカニズムの解明が重要な鍵であると考えられる。詳細な分子メカニズムを解明すべく、Adベクターが感染した細胞の同定を試みる。また、その細胞によるTh17誘導メカニズムを活性化できるような、新規Adベクターの開発を行う。 3.本研究で新規に開発したCTC検出用Adは、従来までのCTC検出用Adに比べより幅広い癌細胞を検出可能であり、偽陽性の検出(従来までのCTC検出用Adは白血球が偽陽性になりやすかった)もほぼ完全に抑制可能であった。一方で、若干GFP強度が低く、生物学的タイター/物理学的タイターが低い傾向にあった。そこで、GFPカセットの位置等を変更した組換えAdを作製し、上記問題の克服が可能か否かを検討する。
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