研究課題/領域番号 |
26242062
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 大地 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70360683)
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研究分担者 |
門田 宏 高知工科大学, 総合研究所, 准教授 (00415366)
平島 雅也 国立研究開発法人情報通信研究機構, その他部局等, 研究員 (20541949)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動記憶 / 非侵襲的脳刺激 / 到達運動 / 運動学習 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は以下の2つである。 1.経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いた運動記憶操作可能性の検討:ロボットマニピュランダムを用いて、10cm前方への腕到達運動中に、ハンドル速度に依存した時計回り、もしくは反時計回りの力場をハンドルに加える運動学習実験を行った。このとき左一次運動野へのtDCSの極性を、力場の方向に応じて、陽極もしくは陰極と切り替えた。このトレーニングを十分行った後、被験者が腕到達運動をしている間に、tDCSを加えると、その極性に応じて、獲得した運動記憶が自動的に想起されることが明らかとなった。このような現象はトレーニングフェイズ、もしくはトレーニング後のテストフェイズにSham刺激を加えた場合では生じなかった。このことは、運動学習時のバックグランドでの脳の活動状態に応じて運動記憶が構築されること、また脳状態をtDCSで変化させた状態で運動学習課題を行わせることで運動記憶を人為的に操作できることを示している。 2.手首運動の制御・学習に伴う脳賦活部位の同定:tDCSを行いながら運動学習課題を行うときの脳賦活部位を同定するため、fMRI内で使用可能なマニピュランダムとシステムを開発した。このシステムを用いることにより、手首を動かしてカーソルをターゲットまで動かす到達運動を行う際に、速度依存性の力場をかけたり、運動軌道を直線上に拘束し、この拘束面に対して発揮される力を測定するなど、fMRIスキャナー外で行っている洗練された運動学習実験の遂行が可能となった。本年度は、このシステムを用い力場の有無やtDCSの極性に応じて賦活する脳部位を同定する予備的実験を行った。fMRI画像への雑音の混入も観察されず、一次運動野や小脳など妥当な領域が賦活することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いた運動記憶操作可能性の検討」については、運動記憶の人工的操作を示唆する興味深い結果を得ることができ、まとめた結果を論文誌に発表できる目処もついている。「手首運動の制御・学習に伴う脳賦活部位の同定」についても、マニピュランダムシステムの開発が予想以上に順調に進み、力場の生成に伴うノイズ混入もないことが確かめられた。運動時の力場負荷印加から、カーソルへの視覚回転変換、運動軌道を直線上に拘束するエラークランプ法にいたるまで、通常の実験室で行っている洗練された様々な運動課題をfMRIスキャナ内で遂行可能な、世界的にみても類を見ない優れたシステムであり、来年以降の研究の進展が期待できる。以上から、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を用いた運動記憶操作可能性の検討」については、他の脳領域を刺激する対照実験を実施する必要がある。また、tDCSによって脳の状態を整えることによる運動記憶の定着、強化への影響など、より長い時間スケールで生じる影響を検討する必要性が生じてきている。さらに、tDCSの脳状態操作が及ぼす、宣言的記憶や条件反射記憶など、運動記憶以外の記憶に及ぼす影響について検討することは、脳の状態と記憶の関連を調べる上で大きな重要性を持つと認識している。 「手首運動の制御・学習に伴う脳賦活部位の同定」については、昨年度の予備的な実験に基づき、実験条件を整え、手首運動を力場に適応させたときに賦活する脳領域がtDCSの極性(陽極か陰極か)に応じてどのように変化するかを明らかにしていく。
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