研究課題
DNA修復系の解析で大きな進展があった。DNAの塩基に損傷が起きたときの修復機能に関連する新規酵素として、昨年度に発見し、Endonuclease Qと命名した酵素の機能解析に加えて、本年度は塩基対にミスマッチが生じた時に、それを認識して切断する新規酵素を発見して解析した成果は大きい。この酵素は Endonuclease MSと名付けた。この酵素の生化学的性質解析、構造解析を活発に進め、新たなミスマッチ修復経路の提唱を行った。また細胞内での機能解析を進めるために、分担者によって、これらの酵素遺伝子を破壊した菌株の単離を行った。RNAプロセシング装置では、P. furiosus全タンパク質抽出液を系統的かつ生化学的に分画し、rRNA前駆体のプロセシングや分解活性に関わるタンパク質複合体の部分精製分画を複数種得た。この画分のLC-MS/MS解析を行い、活性の一つがRNA分解に関わるExosomeの複合体に依る可能性を突き止めた。また、真核生物でrRNA前駆体のプロセシングに関わるNob-1とDim2のホモログを同定した。さらに、試験管内でtRNA前駆体におけるイントロン配列の切断から、エキソンの連結までの再構成を行い、未同定のタンパク質因子がtRNAエキソンの連結に必要であることを予想した。翻訳装置では、P. furiosusのリボソーム結合タンパク質を網羅的に解析し、翻訳に関わる既知因子8種類に加え、プライマーゼを含む5種類のDNA合成関連因子、2種類のRNA合成関連因子、32種類の機能未知の因子を検出した。これら機能未知因子のうち4種類について、精製リボソームとの再結合性を確認した。これらリボソーム結合因子の中には、リボソームの機能中心に位置するstalkタンパク質と結合するもの、リボソーム小亜粒子の二量体形成に関わるものも含まれる。今後の研究の基盤が確立したと言える。
2: おおむね順調に進展している
本研究は極限環境下における生命維持現象の解明を目指している。100 ℃の高温下で生息する超好熱性アーキアが遺伝情報を正確に維持し、子孫に伝達していくしくみを明らかにすることが目的である。超好熱性アーキアの代表的な種であるPyrococcus furious, Thermococcus kodakarensisを用いて、生化学的手法と遺伝学的手法を組み合わせながら解析を進めている。本研究は超高温という特殊環境での生命現象の解明と同時に、これまでの分子生物学で積み上げられてきた多くの知識を整理し、本研究で得られる情報を基に、生物が獲得した遺伝情報の複製、修復、転写、翻訳装置の作動原理を解き明かしたいと考えている。本研究目的に対して、H27年度の成果は、一年間に実施できる内容としては十分に達成できている。塩基対にミスマッチが生じた時に、それを認識して切断する新規酵素Endonuclease MS の発見と、新たなミスマッチ修復経路の提唱を行ったことは顕著な進歩である。RNAプロセシング及び分解活性を担う複合体の分子同定についても、活性に関わるタンパク質(複合体)の部分精製分画をLC-MS/MS解析し、活性の一つがアーキアのRNA分解に関わるExosomeの複合体に依る可能性を突き止めたこと、アーキアのNob-1とDim2ホモログ (Pf-Nob1及びPf-Dim2)を同定したこと、tRNA前駆体スプライシング再構成系を構築したことなど顕著な進展があった。翻訳装置に関しても、リボソーム結合タンパク質を網羅的に解析し、翻訳に関わるタンパク質として新たに、プライマーゼを含む5種類のDNA合成関連因子、2種類のRNA合成関連因子、32種類の機能未知の因子を検出したことは目的通りである。特に複製と翻訳の協調的作用が示唆され、本研究チーム間の連携が今後ますます有効になる。
本研究はH28年度が最終年である。これまでの実績と進捗状況から、期限内にある一定の特筆すべき成果を示すことは確実に達成できる。複製・修復、転写、翻訳のそれぞれで、複合体解析が進んでおり、さらにそれぞれの現象間で関連する因子の候補が上がってきている。H28年度は、個々の研究チームで進めてきたテーマを続行し、未同定の新規因子を同定していくことに加えて、チーム間での連携が大いに発揮される年になると考えている。また、分担チームで単離されてきた各種の遺伝子破壊株を用いて遺伝学的解析を進め、先行している生化学的解析結果を相補していく方向で進める予定である。本研究は、極限環境下における生命維持現象の解明という、他に類似した例を見ない独創的なものであるが、3年間を通して我々人類の生命に対する知識を大きく前進させる成果が得られる予定である。H28年度は、9月に京都において、本研究者らが中心となって開催する国際学会が予定されている。本研究成果の一部はその学会において世界に発信する予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (21件) (うち国際共著 1件、 査読あり 20件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 13件) 学会発表 (52件) (うち国際学会 10件、 招待講演 7件) 図書 (2件) 備考 (2件)
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