研究課題/領域番号 |
26245026
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
金子 守 早稲田大学, 政治経済学術院, 特任教授 (40114061)
|
研究分担者 |
船木 由喜彦 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (50181433)
鈴木 信行 静岡大学, 理学部, 教授 (60216421)
秋山 英三 筑波大学, システム情報系, 教授 (40317300)
石川 竜一郎 早稲田大学, 国際学術院, 准教授 (80345454)
竹内 あい 立命館大学, 経済学部, 准教授 (10453979)
Kvasov Dmitriy 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (90791525)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 帰納的ゲーム理論 / 経験 / 記憶 / 他人の思考 / 協力の発生 / 限定合理性 |
研究実績の概要 |
[金子守]将来の地球全体の運営に関する社会科学の役割を考察した。それは規範的理論と実証的理論からなり、前者は評価基準を与え、後者は具体的運営の方法を考察する事を目標にしている。29年度中に全体像を示す論文を完成させた。この論文はAdvances in Applied Sociology誌に掲載することが決まっている。また、「限定合理性」の立場から認識論理・期待効用理論に関する研究を進め、論文2篇を完成させた。 [船木由喜彦]協力ゲームの解の研究、提携形成の実験研究を行った。ヘドニックゲームの通常の実験の他に、提携形成において、情報を有効に活用しているかを調べる為の視線測定器を用いた実験室実験も行った。 [鈴木信行]ゲーム理論的な状況における意思決定を構成的推論の観点から考察する上で、論理学的に重要となる直観主義論理の述語拡大について研究した。構成的数学において重要視されている選言特性と存在特性に関して成果を得た。 [秋山英三]トレーダーの正確な将来予測に対して報酬を与える資産市場の被験者実験研究において、予測への報酬自体が市場の振舞に与える影響を分析した。検証の結果、被験者への報酬を、取引結果、予測の正確さの二つのうちからランダムに選ぶ場合、予測への報酬自体がもたらす影響を最小化できる事を見いだした。もう一つの資産市場実験研究では、トレーダーの自信が長期的パフォーマンスと相関がある事を示した。 [石川竜一郎]限定合理的主体がゲーム的状況を帰納的推論によって認識し、意思決定を行う理論を考察した。理論的には、論理実証主義の立場から認識の役割を精査した。また実験を通じて、戦略的不確実性の影響を検証した。[竹内あい]帰納的ゲーム理論の実験研究と献血に関する実験研究を行った。前者に関しては記憶されていたゲームの構造と個人の行動との関連性を分析し、後者に関しては論文を執筆し学会報告を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、「社会慣習・行動パターン・限定合理性」に焦点を絞り研究を進めた。特に、社会制度の必要性を認識の限定合理性の観点から考察し、研究分担者と海外共同研究者との間で議論を交わした。これは社会慣習・行動パターンの考察の鍵となると考える。 平成29年9月に、第10回太平洋ゲーム理論コンファレンスを、早稲田大学SGU実証政治学拠点との共催で開催した。Yossi Feinberg教授(スタンフォード経営大学院)を招聘し、Tai-Wei Hu教授(ブリストル大学)、Nathan Berg准教授(オタゴ大学)、Michal Lewandowski助教(ワルシャワ経済大学)、神取道宏教授(東京大学)、関口格教授(京都大学)、安田洋祐准教授(大阪大学)等による報告など、最先端の研究成果を発表し議論を行った。このコンファレンスでは、限定合理性をどのように考えるか、またこれからの研究の方向性を議論した。特に、限定合理性は多くの側面を持つ事、例えば、論理・推論能力・記憶能力などは個人レベルでの限定合理性である。社会制度はこのような限定合理性で限定される社会構成員でも、その社会制度の中で行動できるように設計されていなければならない。所得税制があまりに複雑である場合、社会構成員はその制度のもとで適切な行動をとることができない。このような問題を研究の俎上にあげることができる。 平成30年3月に、研究会:社会慣習・行動パターン・限定合理性を開催し、社会経済問題と限定合理性について議論を行った。限定合理性の問題は20世紀前半に盛んに研究されていた論理実証主義と密接な関連をある事が分かってきた。また、統計学の検定も帰納的ゲーム理論・認識論理の立場から議論した。 上記の様に、平成29年度は当該プロジェクトの基本的部分に関しての研究に進展があった。平成30年度はこれらの研究を収束されるようにしたい。
|
今後の研究の推進方策 |
本プロジェクトの過去4年間の進展に合わせて、より詳細により広い視野から制度・認識・社会正義の研究を進めたい。限定合理性は当プロジェクトにとって重要なキー概念になる事がこの数年の研究で明らかになってきている。この場合、限定合理性はH. Simon より広い意味で理解する。例えば、論理能力・事象に関して認知能力・事象の記憶・パターンの記憶等である。限定合理性の一つの具体的研究として、認識可能な確率を限定した期待効用理論がほぼ完成した。 平成30年度はこれを基礎にして、限定合理性を考慮したナッシュ社会厚生関数の理論を発展させる予定である。これにより社会正義の問題を語る基礎付けが可能になる。具体的には、ナッシュ社会厚生関数が基礎とする効用の基数性を導くのに必要な確率は、どの程度必要かが分析できる。実は、あまり詳細な確率は必要としないことが導かれると予想している。 認識論理では、無理に無限概念を避けようとすると大きな任意性が発生する。その為、どの程度の無限が必要とされるのかも研究する必要がある。この為の研究の枠組はこの4年間でほぼ出来上がったので、ゲーム理論的意思決定への応用が平成30年度の課題である。この応用には、プレイヤーの事前的な意思決定と他プレイヤーの意思決定の予測が問題になる。そして、その予測が事後的に本当にプレイされたかを確認するのは、プレイヤー達に観察可能である。これにより事前的意思決定と事後的な予測の確認のプロセスの考察が可能になる。時間を入れた枠組で均衡概念を再考察する予定である。 平成30年11月に、第11回太平洋ゲーム理論カンファレンスを開催する予定である。成果を報告して、参加者からコメント・評価をもらい、今後の研究につなげたい。このカンファレンスの参加者は、国内・国外から20名程度である。その他、定期的にゲーム理論・経済学・認識論理学の研究会を計画している。
|