研究課題/領域番号 |
26245041
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大竹 文雄 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (50176913)
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研究分担者 |
佐々木 勝 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10340647)
伊藤 高弘 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (20547054)
窪田 康平 山形大学, 教育文化学部, 准教授 (20587844)
李 嬋娟 明治学院大学, 国際学部, 講師 (40711924)
小原 美紀 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (80304046)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | インターネット調査 / 非認知能力 / 労働市場 / 性格特性 |
研究実績の概要 |
競争的市場や再分配に対する態度、利他性や互恵性などの社会性、様々な性格特性といった非認知能力は、学力に代表される認知能力以上に人的資本において重要なものだということを示す多くの研究成果が生まれてきている。しかし、非認知能力が労働市場のパフォーマンスに与える影響を厳密に明らかにするためには、非認知能力の内生性を考慮した分析が必要であるが、十分な分析が行われていない。そこで、非認知能力の形成過程を、教育および家庭環境との関連を明らかにした上で、非認知能力が労働市場でどのように評価されるかを実証的に明らかにするためにインターネット調査を行った。 分析結果では、以下のことが明らかとなった。公立小学校における隠れたカリキュラムは学校間において大きく異なっており、生徒の選好形成とも関連している。特に、参加・協力学習を経験したものは、利他性と互恵性が高くなり、他人への協力を好み、国に対する誇りをもつようになる。これに対し、反競争的な教育慣行の影響を受けている人は、これらの選好をもつ可能性が少なくなっている。推定結果の頑健性についても検討した結果、欠落変数バイアスや逆の因果関係の可能性は小さいと判断できる。本研究の分析結果では、早い段階での社会化の場所としての初等教育は、社会的選好の形成を担う役割を果たしていることが示された。 また、経済的社会的選好の一つである互恵性が賃金・正規雇用確率・昇進確率に与える影響についての暫定的な分析結果から、次のことが明らかになった。第一に、先行研究と同様、正の互恵性と賃金および正社員確率の間には正の相関関係が観察された。第二に、隠れたカリキュラムを操作変数とした推定結果から、正の互恵性は賃金および正社員となる確率に影響を与えていない。この結果は、正の互恵性と賃金および正社員確率の正の相関は因果的影響でないことが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
過去に行った3000人サンプルによる試行的アンケート調査に基づいた研究の完成度を高めるために、多くの学会、研究会で報告し、論文の完成度を高めた。また、H26年度には、当初の研究計画通り、大規模アンケート調査を行い、より信頼性の高いデータを得た。 試行的アンケート調査においては、小学校時代に、読書の時間、二宮尊徳像、グループ学習、夏休みの登校日、国旗掲揚、被爆地への修学旅行、同和教育、運動会における徒競走、相対成績評価などの有無と経済的な価値観に関する質問、利他性や互恵性に関する質問を設定した。 また、経済的な価値観に関する質問項目としては、「自立できない貧しい人の面倒を見るのは政府の責任だ」、「高所得者と低所得者の格差を是正するのは政府の責任だ」、「政府は高額所得者に対して多くの税を課すべきだ」、「市場経済は格差を拡大するがそれ以上に人びとを豊かにする」「人と競争することは楽しい」などの質問項目を設定した。利他性については、「他の人のためになることをすると自分もうれしい」、信頼については「一般的に言って、人はだいたい信頼できる」、互恵性については「頼み事を聞いてもらえたらお返しする」などの質問項目を用いた。H26年度の調査では、試行的アンケートの調査項目に加えて、幸福度、満足度および性格特性を計測するビッグ5に関する質問項目も取り入れた。 これらの調査項目を、日本全国に居住する25-59歳の男女個人を対象に、47都道府県ブロック、25歳から59歳の年齢ブロック、男女別による標本割付を行ない、調査会社の登録モニターに全国配信し、約18000サンプルを回収した。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度においては、H26年度の調査で得られたデータを分析し、試行的アンケートの分析結果の頑健性をチェックするとともに、隠れたカリキュラムが経済的価値観に加えて、幸福度、満足度、性格特性にどのような影響を与えたかを明らかにする。また、学校教育という外生的なショックを操作変数として使うことで、性格特性や互恵性が、労働市場におけるパフォーマンスや幸福度に与える影響を明らかにしていく。分析結果をもとに、新たなアンケート調査を設計し、今後の分析を進めていく。
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