研究課題
ヒトはなぜ高度な知性を備えるに至ったのか。この問いに答えるため、ヒトに最も近縁な現生種であるパン属2種のチンパンジーとボノボを対象とした比較研究をおこなう。かれらの道具的知性と社会的知性の特質と相違点を明らかにすることにより、ヒトの知性の進化的基盤に迫る。チンパンジーとボノボは、近縁種でありながら、道具使用行動においても、社会性においても、特筆すべき大きな違いがあり、その理由はいまだ未解明のパズルとして残されている。こうした違いが、どのような認知機能の違いに起因しているのか、そしてそれはヒトの認知機能とどのような関係にあるのかを探るのが本研究の目的である。平成28年度は、アイトラッカーを用いた視線計測によって、チンパンジーやボノボが他者の「誤信念」を潜在的に理解しているのかどうか検証する研究をおこなった。「誤信念の理解」は、従来、ヒトとヒト以外の動物を分ける高度な認知機能とされてきた。本研究によって、類人猿も誤信念を理解していることが示唆された。この研究成果は米学術誌「サイエンス」に掲載された。また、所期人類が石器使用に用いたのと同じ石の材料を用いてチンパンジーがナッツ割り道具使用をおこなった際に生じる石の摩耗を調べ、化石として発見される所期人類の石器の摩耗痕と、チンパンジーが実際に使ってできる摩耗痕の特徴がおおむね一致していることを見出した。チンパンジーを対象にした行動研究が、化石人類の行動を理解するうえで有益であることを示した参照点となる研究と言える。その他、チンパンジーとボノボの社会交渉の違いを観察して定量的に示す研究に着手し、基礎となるデータを得た。
2: おおむね順調に進展している
計画調書に記載した研究計画の主要な部分に着手し、前年度に引き続いて研究を継続している。研究計画の2本柱に掲げた実験的研究においても自然観察的研究においても、そしてチンパンジーとボノボという比較においても、それぞれ一部の成果を論文として公表することができた。特に、類人猿の誤信念の理解に関する研究は、サイエンス誌に掲載され、同誌が選出する2016年の10大論文にも挙げられた。これらのことから、研究はおおむね順調に進展していると考える。
チンパンジーとボノボの社会交渉の違いに関する自然観察的な研究において、基礎となるデータを蓄積することができた。詳細な解析を進めたい。また、アイトラッカーを用いた研究や、タッチパネルを用いた研究も、着実に成果を見込むことができ、粛々と継続する。研究計画の大きな変更が必要となる事態は生じておらず、また、研究を遂行する上での問題点もこれまでのところは存在しない。概ね当初の予定通り推進する方策である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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