研究課題
呼吸状態をリアルタイムでモニタリングしながら,時間と量を制御して匂いを呈示する装置を開発した.さらに本装置が有効に機能するかどうかを検証する心理物理実験を行った.実験ではバニラ香料を水で稀釈した溶液を刺激としてバニラ濃度を4段階に操作し,吸気,呼気にあわせて前鼻腔,後鼻腔経路から嗅覚刺激を提示した.これらの嗅覚刺激について実験参加者は,VASを用いて知覚強度を評定した.その結果,本装置による段階的な強度に対応した強度評定が得られることが可能であることを確認した.味覚と嗅覚の組み合わせがマッチしている条件(マッチ条件)とマッチしていない条件(ミスマッチ条件)を設定した実験を行った.その結果,マッチ条件の方がミスマッチ条件よりも半値半幅が有意に高い値を示した.乳幼児を対象とした研究については多層的な構造を持つ物体の表面や内部の物性についての知覚が,発達初期にどのように変化するかを前年度から引き続き検討した.視覚的な情報のみを手がかりとした場合でも,生後11-12ヵ月の乳児には,多層的な構造を持つ物体のやわらかさや固さの複雑な質感を知覚可能であることが明らかになった一方で,生後10ヵ月以下の乳児では,そのような知覚が可能であるという証拠は得られなかった.また幼児対象実験用の提示機器を開発した.マウス実験については幼児期のマウスを用いて天然バニラ香料および天然オレンジ香料の匂い付けた食塩水を与えて育てた.利尿薬投与により塩味欲を亢進させたマウスに対して15-60mM 食塩水及び香料を付加した食塩水を提示し,それらの好ましさの違いをリック試験により比較した.バニラ/オレンジいずれの香料でも,経験した匂いのついている食塩水を多く摂取する傾向が見られた.
2: おおむね順調に進展している
前年、嗅覚提示装置が難航したが,それによって嗅覚デバイスの性能の確認の技法などが確立され,実験使用に耐えうる装置が開発された.脳機能測定の着手はやや遅れているが味嗅覚同時性知覚について,日常生活における食経験が味覚と嗅覚の間の分離知覚に影響を及ぼすという新たな知見がみいだされ,味嗅覚認知にとって有意義な測度が得られた.乳児の視覚による物性知覚についてはスイスの電子学術誌であるFrontiers in Psychology誌に掲載され,難航していた幼児用の味嗅覚提示器具の開発に成功した.マウス実験では昨年見出した傾向をさらに頑健に裏付けられることができた.実験遂行をしていき予定外の困難はあったが,当初の計画では予想していなかったような技術と知見を得られた.これらのことから,おおむね順調に進展していると考える.
次年度以降は開発した嗅覚デバイスを用いて呼吸と連動した嗅覚刺激提示を行い,味嗅覚相互作用と呼吸の関係を精査する.同時性計測については事象関連電位による脳機能計測を行う予定である.乳児を対象とした実験については,新たに開発した味嗅覚提示器具を用いて,幼児期の味嗅覚統合の形成について検討する.マウスの実験についてはn数がまだ十分ではないのでさらに継続して実験を行う.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件)
生物科学
巻: 67(2) ページ: 104-115
Frontiers in Psychology
巻: 6:1005 ページ: 1-7
10.3389/fpsyg.2015.01005
Food Quality and Preference
巻: 44 ページ: 162-171
10.1016/j.foodqual.2015.04.007
Progress in Medicine
巻: 35(4) ページ: 87-90
日本味と匂学会誌
巻: 22(2) ページ: 171-179
巻: 22(3) ページ: 321-324
Food Policy
巻: 55 ページ: 33-40
巻: 46 ページ: 119-125
10.1016/j.foodqual.2015.07.014
映像情報メディア学会誌
巻: 69(9) ページ: J271-277
JATAFF ジャーナル
巻: 3(12) ページ: 24-28