研究分担者 |
谷井 孝至 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20339708)
小野田 忍 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究センター, サブグループリーダー (30414569)
寺地 徳之 独立行政法人物質・材料研究機構, 光・電子材料ユニット, 主幹研究員 (50332747)
川原田 洋 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90161380)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、イオン注入によりNVセンターの配列を作製し、隣り合う電子スピン間の双極子双極子相互作用にもとづくコヒーレント結合した数量子ビットの量子レジスタの実現である。コヒーレンス時間内に多くのゲート操作を行うには、距離を短くして、強いコヒーレント結合によりゲート時間を短くすることが求められる。このような短い距離のNVセンター配列の作製技術として、位置精度の高い低エネルギー、およびナノホール配列のマスクを用いた窒素イオン注入によるNVセンター作製の開発が順調に進んだ。 量子情報デバイスに応用できる新しいカラーセンターの探索において大きな進展を達成することができた。量子中継器や量子テレポーテーションへの応用にとって重要な光子とスピンとのインターフェイスにおいてSiV-センターが極めて優れていることを見出した。異なる位置のSiV-センターからの光子のエンタングルメントに欠かせないHOM量子干渉の観測に成功し、またCPT(coherent population trapping)という重ね合わせ状態の生成に成功した。これらのPhys. Rev. Lett.に発表された2論文はいずれもViewpoint in Physicsに選ばれる [Andrew D. Greentree,“Viewpoint: Diamond and Silicon Get Entangled”, Physics, 7, 93 (2014)、Guido Burkard, “Viewpoint: Diamond Spins Shining Bright”, Physics, 7, 131 (2014))]とともに、2014年のViewpointのなかのHighlights of the Yearに“Useful Silicon Defects”として選ばれている(Physics, 7, 132 (2014))。
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今後の研究の推進方策 |
NVセンターの単一の電子スピンは長いコヒーレンス時間(~ms)に加えて、スピンの初期化と読み出し・マイクロ波パルスによるスピン操作が可能な点で、室温動作の優れた量子ビットである。NVセンターをならべて多量子ビット化するには、単一スピンの回転操作は速い(~ns)ので、隣接するスピン間の双極子双極子相互作用による2量子ビットCNOTゲートの高速化が課題であり、短い距離の配列作製が必須である。我々は、まず、ナノホール配列を用いた低エネルギー窒素分子イオン注入において、ナノホール径・注入エネルギー・注入イオンのフルエンスを最適化する。その上で、1枚の基板あたり~10万をこえるナノホールを通した注入に、規則的なナノホール配列のメリットを活かした効率的な探索法を組み合わせることにより、3~5量子ビット量子レジスタとして特性の高い配列を探し出すことができると考えられる。この配列作製法に、12C濃縮基板の高純度化・成長表面の平坦化を含む高品位化、追成長・熱処理条件の最適化によるコヒーレンス時間の改善、さらに、表面処理による電荷の安定化を加える。 コヒーレンス時間の長い核スピンを量子ビットに用い、電子スピンを用いて初期化・読出し、2量子ビットおよび3量子ビットゲートの高速化を実現したハイブリッド型量子レジスタで3量子ビット量子エラー訂正を実証している(G. Waldherr et al., Nature 506, 204 (2014))。電子線照射およびイオン注入を用いて、このハイブリッド型量子レジスタの多量子ビット化も試みる。 SiV-センターをはじめ、NVセンター以外のダイヤモンド中のカラーセンターについても、量子情報素子への応用に適したカラーセンターを探索し、そのイオン注入による位置を制御した作製を試みる。
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