研究課題/領域番号 |
26246002
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高村 由起子 (山田由起子) 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (90344720)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 二次元材料 / 走査プローブ顕微鏡 / 表面・界面物性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、シリセンとの格子整合性に優れた半導体層状物質であるセレン化ガリウム(GaSe)薄膜成長実験が進展した。GaSeは、その表面に未結合手がないことからシリセンとの相互作用が小さいことが予想される。報告されている理論計算の結果からも、GaSeの様な金属カルコゲナイド上のシリセンは、電子状態が自立シリセンとほとんど変わらず、ディラック・コーンを保持すると予測されている。当初、このGaSeを基板としてシリセンを形成する実験を行うために、単結晶GaSeを利用することを検討したが、得られる結晶のサイズが小さいため、角度分解光電子分光法を用いて電子状態を調べる際に有利な大面積試料を得ることが可能である、気相からの薄膜成長に着手した。本学に既設のGaAs用分子線エピタキシー装置に新たにSeを導入し、成長条件を最適化することでGeウェハ上に単結晶配向膜をエピタキシャル成長することに成功した。薄膜表面の電子状態測定から、シリセンのバンド構造でディラック・コーンが期待される波数において表面状態が存在しないことが確認された。また、走査トンネル顕微鏡で原子分解能観察可能であることも明らかとなった。このことから、GaSe薄膜は自立様シリセンを実現する上で理想的な基板であることが確認できた。断面透過電子顕微鏡像からは、Ge基板とGaSeの界面は非常にシャープでGe基板表面は酸化されていないことが確認でき、GaSeをパッシベーション膜として使用する上で重要な知見が得られた。GaSe薄膜の気相成長が可能となったことから、GaSeをシリセンのパッシベーション膜として形成する実験への発展も大いに期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、シリセン上へのケイ素の蒸着実験により得られた知見をまとめた二報の投稿論文が査読付論文誌に掲載された。 エピタキシャルシリセンの構造解析に関しては、新たに共同研究を始め、放射光施設における回折実験を行うことができた。実験結果については、現在解析を進めている最中である。 GaSeは、格子整合性、相互作用の面からシリセンの理想的な基板材料であるが、容易に高品位単結晶が手に入る材料ではない点がネックであった。平成27年度後期に着手した既存の分子線エピタキシー装置の整備が進んで薄膜成長実験が可能となり、単結晶配向したGaSe(0001)薄膜を成長してその表面を評価するところまでこぎつけることができた。 また、英国University College Londonと独国Forschungszentrum Juelichの共同研究者とともに取り組んでいる、分子のシリセンへの吸着現象の理解が進展し、シリセンのドメイン境界におけるわずかな構造の変化が原因で分子が化学的に吸着することが明らかとなった。このように、空孔など点欠陥における未結合手ではなく、連続した蜂の巣格子の局所的な構造変化により反応性が増すことは、層状物質から作られることの多い、他の二次元材料にはないシリセンの特徴であり、基板やパッシベーション層との相互作用を考える上で非常に重要である。 以上から、今年度も実験と理論計算を通して重要な知見が得られており、本研究課題は、目指している方向に着実に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本年度に得られたGaSe薄膜試料を基板として蒸着時の温度や蒸着後の温度処理条件をパラメータとしてSiを蒸着してシリセンの形成を試み、その表面構造や電子状態を走査トンネル顕微鏡や光電子分光で分析する。SiとGaSeの相互作用を調べるためには、高分解能内殻光電子分光を行う必要があるが、既にその測定のための放射光施設におけるビームタイムを確保している。 また、GaSeの特徴から、この物質がシリセンのパッシベーション膜としても優れていると予測されるため、GaSe成長に使用している分子線エピタキシー内でのシリセンの形成とパッシベーション膜成長を試みる。
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