π電子系アミノ酸分子、σ電子系アミノ酸分子、およびリン酸化チロシンをトンネル電流で識別し、全20種類のアミノ酸分子と1種類のリン酸化アミノ酸分子の1分子電気伝導度の決定と電気伝導機構の解明を行うことを目的として、DNAとmiRNAの塩基配列決定を行ってきた機械的破断接合によるナノギャップ電極を用いて、溶液中で1分子電気伝導度計測を行った。π電子系、σ電子系アミノ酸分子、およびリン酸化チロシンの計測では、スパイク状の電流シグナルが得られ、ベース電流より大きな電流が得られた。得られた1分子コンダクタンスをもとに、コンダクタンスヒストグラムを作成したところ、それぞれの分子に対応して1つのピークコンダクタンスが得られた。π電子系アミノ酸分子の1分子コンダクタンスは、σ電子系アミノ酸分子の1分子コンダクタンスより大きい値となったが、σ電子系アミノ酸分子では、統計的に有意な1分子コンダクタンスが得られないものがあった。これは、σ電子系アミノ酸分子は、長い側鎖のため、非常に弱い電極―分子間の電子的カップリングを持ち、また電流を流しにくい電子構造を持つ最高占有分子軌道(HOMO)と最低非占有分子軌道(LUMO)が、電極のフェルミ準位から深い位置に存在するためと考えられる。20種類のアミノ酸分子の分子軌道計算を行い、HOMOとLUMOのエネルギー準位を調べたところ、電極のフェルミ準位から深いHOMO・LUMOを持つアミノ酸分子は、1分子コンダクタンスが得られないアミノ酸分子と対応していた。さらに、アミノ酸分子のHOMOとLUMOのエネルギー準位のpH依存性を量子化学計算により評価したところ、pHの増加に伴い、HOMOとLUMOのエネルギー準位が高くなり、pHの大きさにより、HOMOとLUMOのエネルギー準位の順番が入れ替わることが示唆された。
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