研究課題/領域番号 |
26246007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松原 英一郎 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90173864)
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研究分担者 |
豊田 智史 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20529656)
大石 昌嗣 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30593587)
市坪 哲 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40324826)
水木 純一郎 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90354977)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | x線回折 / 固溶体正極 / 異常分散 / リチウムイオン電池 |
研究実績の概要 |
ナノドメイン分散型材料(NDD) は、Li+の挿入脱離が容易な層状岩塩構造酸化物中に、Li+脱離時の層状構造不安定化を防止するための類似構造酸化物のナノピラーを設けた、既存のリチウムイオン蓄電池高容量化に有効な正極材料である。本研究では、相や原子位置を選択できるX線回折に元素識別可能なX線異常散乱を組み合わせ、X線回折異常分散微細構造法(DAFS法)を確立し、蓄電池反応中の遷移金属元素等の酸化状態と構造変化を系統的に解明し、遷移金属元素等の役割を理解し、高容量正極実現のためのNDDの材料設計指針を構築することを目的としている。本年度は、NDDの蓄電池反応下でのその場X線回折測定技術と、NDD構造のモデル電極材料を用いたDAFS測定技術の確立を実施した。1つめの研究では、X線回折実験用の電池セルの作製技術の研究開発を行った。電池セルの材料としては、X線の透過能に優れ、空気を完全に遮断できるアルミニウム箔にラミネート加工を施したラミネートシートを用いた。作用極に集電体に塗布したNDD酸化物電極を用い、対極と参照極にLi金属シートを用い、セパレーターでこれらの電極同士が接触しないようにして、ラミネートシートを袋状に加工した電池セル中に電解質と共に封入したラミネートセル電池を試作した。このセル電池を用いて、電池反応下での電極物質の構造変化のその場観察を行い、セルの信頼性を検証した。2つ目の研究では、Ni多結晶箔などを用いて測定方法を検証してきたDAFS法を、実際の電池正極の構造解析に適用できるかどうかを検証した。層状岩塩構造のリチウムイオン層と金属カチオン層の両方の層に、金属カチオンを一定量分布させることができるLiNiO2試料を用いて測定を実施することで、両方の層に存在するNiイオンの蓄電池反応性を区別して測定できるかどうかについて研究し、これらが可能であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NDDの蓄電池反応下でのその場X線回折測定技術の研究では、アルミニウムラミネートセル電池で電池反応を行いながら、放射光X線を照射して測定を行うことで、NDD電極材料からの回折強度のその場測定を実現し、得られた回折強度プロファイルを解析することで、蓄電池反応と電極物質の構造変化との関係について解析できることを実証することができた。また、NDD電極物質中の異なる相や異なる原子位置に存在するある特定の金属カチオンの蓄電池反応下での酸化状態と構造変化とを明らかにすることができるDAFS法を用いた測定技術開発の研究では、(1)粉末試料を用いた測定技術の確立、(2)測定時間の短縮、(3)測定スペクトルの構造モデルを必要としない直接的解析法の確立の3つの課題に取り組んだ。粉末X線回折を用いた測定では、電極試料の粒径が十分に細かい場合にはDAFS測定ができることを証明することができた。また、粉末試料を用いることでX線入射エネルギーを走査して行う測定時に、入射エネルギーごとの光軸調整を必要としないため、2次元検出器などとの組み合わせによって大幅な測定時間の短縮ができることも明らかにした。さらに、解析方法の開発では、フーリエ赤外線分光などに用いられてきた対数分散関係を巧みに利用することで、回折データから位相を直接的に決定できることを明らかにした。これらの問題解決により、これまでの単結晶や薄膜試料を中心に行われてきたDAFS法と比べて、一桁以上の測定時間の短縮を実現し、電極物質を含む全く未知の物質の解析にもできることを証明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
蓄電池反応下でのNDD電極物質の解析に必要なその場X線解析技術やDAFS法による測定技術を確立することができた。また、DAFS法による層状岩塩構造を示すモデル電極物質の原子位置を特定した構造解析を実現した。これらの研究成果を受けて、今後は、LiMO2-Li2MnO3「コンポジット」系電極材料を用いた測定を実施する。測定には、LiNiO2電極材料の研究で得られた知見を活かすために、40%LiNiO2-60%Li2MnO3電極材料の解析に挑戦する。この電極材料の場合、40%の112相(LiNiO2)と60%の213相(Li2MnO3)の組成を示す材料である。可逆的な電池反応を示す112相と不可逆的な電池反応を示す213相からなっているが、合成した電極材料では、含まれるリチウム金属の挿入脱離が、合成材料の80%以上で起こることが知られており、基本組成から予想される相の性質との違いの解明が問題となっている。この構造は、層状岩塩構造を示す112相的な母相中に213相的なナノドメインが分散していると考えている。そこで、本研究では、母相とナノドメイン両方の相を区別し、かつリチウム層と金属カチオン層とを区別して、NiイオンとMnイオンとのリチウム挿入脱離に伴う価数変化と、これらの金属イオンの周りの局所構造変化を、NiおよびMnのK吸収端を用いたDAFS法で解明する。ここで得られた知見に基づいて、LiMO2 - Li2MnO3「コンポジット」系電極材料において、未だ明らかでない通常の112相型の電極材料に比べて、より多くのLiイオンの挿入脱離ができる機構を解明したい。また、この材料の場合、リチウムイオンの挿入脱離の繰り返しによって劣化することが知られており、213相的な構造を示すナノドメイン相の役割が議論されている。このナノドメイン相の構造変化について、これらの相に含まれる金属カチオンの局所構造解析を行い、劣化機構についても解明を試み、より高寿命な電池設計の指針について考察したい。
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