(1) ナノ粒子を観察 : 50nmの厚さの窒化シリコン薄膜で包んだ中空チャネルが、宙吊りになっている構造のデバイスを作成した。電子線の透過方向のチャネル厚みが異なるデバイスを作り、その中から高分解能で観察するための最適な厚さとして100nmを選択した。チャネル内部に金ナノ粒子や銀ナノ粒子を入れた水溶液を封止し、このデバイスをSTEMの内部に入れてナノ粒子を観察した。実験の結果、粒子を10nm以下の分解能で観察できた。さらに、観察の途中でナノ粒子が動いている様子をリアルタイムで可視化できた。 (2) 生体試料の観察1(抗体) : 作成したナノチャネルデバイスを用いて、生物学的に重要なサンプルをいくつか観察した。まず、TEM像の可視化マーカーとして金ナノ粒子(AuNP)を使用した。60nmの直径のAuNPを抗体に15nmのAuNPを抗原にそれぞれ付加した試料を準備し、それを混合した溶液をデバイスに封入して観察した。抗原抗体反応により結合した大小の粒子の間隔を測ったところ、抗体分子と抗原分子の大きさの理論値から導いた値と一致した。この観測は、試料乾燥後ではなく液体中で行われたため、in-vivoでの反応生成物をより正確に反映した観察ができたと言える。 (3) 生体試料の観察2(カリクサレン) : 血栓の形成に関与するタンパク質と相互作用をする材料として知られる銀ナノ粒子カリサレン複合体の凝集過程をTEMで観察した。銀ナノ粒子の周りにあるカリクサレンが、たんぱく質を介して結合することで銀ナノ粒子同士が集まる過程を実時間観察できた。これはカリクサレン粒子が血栓を生成する際に凝固する性質を確認したものである。 以上のように、液体の金属粒子を手掛かりに分子間の反応を実時間で観測できる実験系を構築し、いくつかの生体試料の特徴的な性質をTEMで可視化できた。
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