研究課題/領域番号 |
26246011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹谷 純一 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (20371289)
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研究分担者 |
宍戸 厚 東京工業大学, 資源化学研究所, 准教授 (40334536)
大島 義文 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (80272699)
松井 弘之 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (80707357)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機・分子エレクトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、柔らかいことを特徴とする有機半導体において、「応力」が集合体構造を大きく変調し、電子移動の速さを著しく増大させることを見出した代表者らの研究成果に基づいて、応力下での構造と物性を精密に相関させる。さらに、得られた相関関係により応力歪を導入したデバイスを設計し、現状の有機半導体の限界を超える移動度を実現することを計画した。 昨年度は、代表者のグループにおいて新たに開発したチオフェン系有機半導体分子C10-DNBDTの単結晶膜を利用し、一軸応力の歪みを加えることに成功し、実際に70%に及ぶ移動度の向上を実現した。 今年度はより詳細な磁場中及び低温での電子物性計測を進めるために、低温磁場下の環境を実現するクライオスタット装置の中で、一軸応力を加えられるように、新たな圧力セルを設計、製作した。これによりクライオスタットに装着可能な小型圧力セルにトランジスタサンプルを搭載し、4.2 Kまでの低温、10 Tの磁場中での精密な電子伝導物性の測定を行うことが可能となった。 これらの装置を基に、プラスチック基板上に作製されたC10-DNBDT-NWの塗布単結晶トランジスタに、基板を曲げて圧縮歪みを導入した状態で、移動度の温度依存性及びホール効果測定システムを構築し、大きな歪効果の生成メカニズム解析に取組んだ。 その結果、歪みの有無に関わらず明確なホール効果が室温から低温(~200 K)に渡って観測されると共に、FET移動度とホール移動度の両方が負の温度依存性を示すことを見出し、キャリア伝導は常にバンド伝導的であることを明らかにした。また、FET移動度は歪み(~2.5%)の導入及び冷却(~200 K)により、2倍以上増加し30 cm2/Vsを超える値が得られることも見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者のグループにおいて新たに開発したチオフェン系有機半導体分子C10-DNBDTの単結晶膜を利用し、一軸応力のひずみを加えることに成功し、実際に70%に及ぶ移動度の向上を実現した。この結果は、これまでに報告されているひずみ効果の大きさを大幅に上回るだけでなく、単結晶の構造変化との相関が得られている点で画期的である。 移動度のひずみ依存性について、信頼度の高いデータを得ることがはじめて可能となったため、大きなひずみ効果を説明するメカニズムを解明するために、移動度の温度依存性及びホール効果の測定システムを構築し、理論グループとの共同研究を進めたことも特筆すべき成果である。 即ち、単なる分子間距離の収縮では、大きな移動度の変化を説明することはできず、分子運動が抑制される効果が大きいことを明らかにし、温度冷却と歪みがキャリア伝導に及ぼす影響を分子振動の抑制の観点から説明できることを明らかにした。 以上の結果は、すでに論文にまとめられて、ジャーナルに投稿されている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまでに確立した手法によって、東大グループの岡本らが開発する化合物の中から高移動度かつ圧力係数の高い有望な分子を理論予測で見出す検討を進める。様々な圧力におけるX線構造解析による構造決定は、分子の回転自由度を含んだ正確な結晶構造を把握することができ、有効質量計算が可能となる。これらを含め、理論計算による応力下の移動度予測ならびに、構造物性相関の解明を進める。 また、室温常圧で移動度が20 cm2/Vsに及ぶ特性は、有機半導体の中で最も小さい数10 kohm程度のシート抵抗を実現しているが、低温での電子ガス状態実現には至っていない。応力によってさらに数倍程度高い伝導度が得られると、有機半導体で初めての低温金属状態を実現できる可能性がある。 この現象が観測でき、そのメカニズム解明が出来れば、二次元電子ガスの金属絶縁体転移、超伝導など新規な電子凝縮相の実現など、凝縮系物性物理の豊富な分野になりうる。
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