研究課題/領域番号 |
26246017
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 至崇 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40224034)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子ナノ構造 / 量子効率 / 太陽電池 / 太陽光発電 / 自己組織化量子ドット / 分子線エピタキシー |
研究実績の概要 |
GaAs(311)B基板上に、20層の自己組織化InGaAs量子ドットと25nmのGaAsスペーサ層をi層とするpin型量子ドット太陽電池を作製し、9Kの低温で赤外パルス光照射による量子効率の増加量(△EQE)の赤外バイアス光波長依存性を測定した。 得られた△EQEの2段階目の赤外バイアス光励起波長依存性の結果から、1段階目のバンド間遷移として、2次元ぬれ層(WL; 1.45 eV)、及びGaAsバリア層(1.70 eV > Eg=1.50 eV)を励起することでEQEの増大が確認された。これらの場合、価電子帯からのバンド間遷移で生成されたキャリアのうち、量子ドットに捕獲されたキャリアが赤外バイアス光で再励起されることで、EQEの増大が得られていることを示している。また同結果から、明瞭な0.20 eV のピーク構造と0.42 eV 以上のバンド構造が観測され、それぞれ中間バンドに相当する量子ドットの基底状態から励起状態の束縛状態、及び伝導帯の連続状態への遷移によるものであると考えられる。一方で、量子ドット基底状態(1.35 eV)を共鳴励起した場合、赤外バイアス光照射によってEQEが減少する効果が観測された。これは、伝導帯内に存在するトラップ準位に赤外励起キャリアが捕獲されたことによると考えられ、量子ドット共鳴励起による光キャリア注入量を改善する、すなわちより高密度の量子ドット層を形成する必要があることを示唆している。 これらの結果により、高密度量子ドットアレイが形成する中間バンドから伝導帯への光学遷移によるスペクトル特性が明らかになった。今後、室温においても中間バンドに適切なキャリア占有状態を実現することができれば、2段階光吸収による高効率な電流増大が得られることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、高密度量子ドットアレイが形成する中間バンドから伝導帯への光学遷移によるスペクトル特性を明らかにすることを目標とし、当初の目標を達成できた。次年度以降、室温においても中間バンドに適切なキャリア占有状態を実現することができる大陽電池構造を検討し、2段階光吸収による高効率な電流増大を実証していく。
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今後の研究の推進方策 |
InGaAs/GaAs量子ドット太陽電池において、低温での2段階光吸収特性の詳細な評価と解析を行うことができたが、室温においては現状の量子ドット太陽電池では電界や熱による量子準位からのキャリア脱出が生じて電圧が低下するとともに、2段階光吸収についても占有密度の低下により中間バンドから伝導帯への吸収係数が低下してしまう。 量子ドットからの電界や熱によるキャリア脱出を抑制するために、バリア層として従来型のGaAsよりワイドギャップの材料を用いた量子ドット太陽電池における、2段階光吸収による光電流増大について検討を行う。予備実験で、多層積層InGaAs量子ドットのバリア層にGaAs、及び高ギャップのAlGaAsを用いた量子ドット太陽電池において、赤外パルス光照射下での△EQE測定を行った。9Kの低温での2段階目の中間バンドから伝導帯への遷移スペクトルの結果から、まず1段階目のバンド間遷移にはバリア層のバンドギャップより短波長のCW光を用いており、得られたEQEの増大は量子ドットに捕獲されたキャリアの再励起による。GaAs, AlGaAsそれぞれのバリア層に対し、束縛状態間と考えられる遷移が0.2, 0.4 eVに得られた。これらの△EQEの温度依存性から、GaAsバリアでは80K以下で光電流増大が得られているのに対し、AlGaAs試料では明瞭な信号が得られる閾値温度が220 Kまで向上した。フィッティング解析を行いパラメータ評価したところ、熱励起の活性化エネルギーはGaAsバリアでは48meVだったものがAlGaAsバリアでは230meVまで増大し改善された。室温での高効率な2段階光吸収に向けてはワイドギャップバリア層を用いたバンドオフセットの増大が有効であると考えられる。
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